中空に浮かぶ女性の下半身、仰向きの猿、板塀を前に身をかがめる男、塀の向こうに白く描かれたシルエット、そしてコウモリ傘をさす紳士。これら奇妙なモティーフが錯綜する画面は、見る者の理性を揺さぶり、認識を混乱させる。 画面左下に書きつけられたフランス語の一文 Il’est plus bon qu’à regarder les amours des autres「彼はもはや他人の恋(情事)を覗き見ることぐらいしかできない」が示すように、白抜きのシルエットは睦み合う一組の恋人たちであり、男は塀越しにそれを覗いている。作品全体の完全な解釈は難しいが、男の行為を半ば覆い隠すように浮遊する女性が性愛を司る女神ヴィーナスであり(背後に彼女の持物である鳩とオリーブ樹が描かれている)、猿もまた西洋では古くから淫欲の象徴とされることから、窃視者の欲望をめぐる寓意を主題していると考えられる。 1924年、彫刻を学ぶために渡仏し、やがて絵画に転じた福沢は、非論理的思考の表現をめざすシュルレアリスムの影響を受けた。本作においてもシュルレアリスムの代表的な技法のひとつ、デペイズマンが用いられている。日常ではありえない事物を組み合わせ不条理感を演出するこの手法と、象徴という古典的な主題表現を混合し、福沢は意味と無意味が織りなす不可思議の世界を描き出している。