熨斗(のし)とは、鮑(あわび)の肉を薄く切って伸ばしたものをいい、贈答品に添えられるものである。「生のくさけ」と総称され、これを付すことで慶事を知らせる機能を持って
いる。かつて博多の商家には、二種類の熨斗が常備されていた。ひとつは、箱熨斗と呼ばれるもので、扇形の箱の中に、大型の熨斗を入れたもの。もうひとつは、玄界灘で揚がった箱フグの剥製(はくせい)である。
箱熨斗は、常に床柱に掛け置かれるもので、正式な熨斗とされる。花嫁の初歩(はつある)きや初孫の宮参りなどの挨拶があったときに、この熨斗を客の正面に差し出して、蓋を半開きにして答礼する。また、花嫁の「熨斗ふみ」の場合には、箱から熨斗だけを出して三方(さんぽう)に載せて儀式を行った。箱フグはそれ以外のお祝い事のときに、お盆にのせて 答礼するのに使った。いわば、略式の熨斗である。この箱フグを熨斗に使う習俗は、他の地方では見られない玄界灘沿岸だけの民俗である。
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