釈迦の半生を述べた挿し絵入りのお経。本巻では仏陀となった釈迦が、迦葉三兄弟をはじめ、外道の婆羅門をつぎつぎと弟子にしていく。
『過去現在因果経』は、釈迦の前世の因縁から、成道して大迦葉を弟子とするまでの半生を説いたものである。本巻は、もと8巻仕立てであったものの最後の巻である。下段に経文を記し、上段にその物語に対応する挿し絵を描く形式をとり、後世の「絵巻物」とはやや異なるが、このような形式の経典は、中国の敦煌からも唐代の遺品が発見されている。現に絵入りの因果経についても、中国からもたらされた原本をもとに、奈良時代に盛んに書写されていた様子が、正倉院文書などの史料からうかがえる。黄麻紙の料紙を用い、経文は謹厳な楷書体で書写されており、一方、挿し絵は山岳や樹木の描き方、飄々とした人物像など、古拙な味わいを色濃く留める。巻首に「三津寺」の墨書と「興福伝法」の印が押されており、その由来を物語る。本巻は、本学開校にあたり、フェノロサと岡倉天心が購入を決めたもので、大学美術館の収集品のうち最も早いものである。(執筆者:高瀬多聞 出典:『芸大美術館所蔵名品展』、東京藝術大学大学美術館、1999年)
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