本図は晩秋の情景を描く。画面下方に地上の五羽の雁を、上方に飛翔する庭の雁を配し、中央には淡墨の力強い筆致で芦の葉を描いて自然の奥行きを暗示している。雁の描写に意のままに描いたとみられるところがあるが、この時代にはすでに水墨の芦雁の描法に定形化がすすんでいたとされている。
作者と伝えられる牧谿は宋末元初の禅僧画家で生没年は不詳。法諱を法常といい、蜀(四川省)の人。西湖のほとり六通寺の開山で、山水、人物、花鳥など幅広く水墨画をよくし、わが国室町・桃山時代の水墨画に大きな影響を与えた。
本図上方には元の禅僧鏡堂思古の題詩がある。鏡堂思古については、日本僧鉄牛景印に与えた偈が残っていることから、14世紀初め頃活躍した人と考えられ、そこから本図のおおよその制作時期が推測される。