和更紗

舶来更紗への憧れが生み出した、型紙使いの多色染め技法

作成: 立命館大学アート・リサーチセンター

立命館大学アート・リサーチセンター 協力:京都女子大学

和更紗 《白地唐花文様和更紗》(江戸後期) - 作者: 写真:渞忠之立命館大学アート・リサーチセンター

大航海時代の華

インダス文明(BC2600~BC1800)の頃より木綿栽培が行われ、高度な木綿の染色技術もあったインドで誕生した更紗。茜染めの鮮やかな赤が印象的な文様布は、15世紀半ばから始まるヨーロッパによるアフリカ、アジア、アメリカへの進出、つまり大航海時代の幕開けとともに、交易品として広まりました。当時のヨーロッパや日本では、木綿は未知の素材。更紗の異国情緒溢れる鮮やかなモチーフと、軽くしなやかで丈夫な地風は、人々を魅了しました。江戸時代を迎えた日本では、大名家や茶人、富裕町人が、更紗を珍重しました。

和更紗 右: 「白地唐花文様更紗」『佐羅紗便覧』(江戸後期) - 作者: 写真:渞忠之立命館大学アート・リサーチセンター

国産更紗への発展

インドやインドネシア、ヨーロッパ製の更紗が日本に多く渡来しましたが、庶民には高嶺の花でした。舶来裂への憧れが模倣を生む力になり、技法書も登場します。18世紀後半には、『佐羅紗便覧』、『増補華布便覧』、『更紗図譜』が続々出版され、手描き更紗の教科書になりました。ただ、当初は輸入木綿に手描きだったため、手間もかかり高価でした。やがて国内に木綿栽培が広がると、国産の木綿地が普及、また、革染めや小紋染めに使われていた型紙を応用した捺染技法による多色染めが可能になり、庶民でも手の届く和更紗が誕生します。

和更紗 《型紙での多色染め》(写真:渞忠之)立命館大学アート・リサーチセンター

型紙での多色染め

江戸時代には、京都、堺、長崎、鍋島などが主要な和更紗の生産地でした。和更紗の技法は、手描き、型紙染め、型紙と木版の併用の3種類に分類できますが、手間のかかる手描きは廃れ、木版と型紙を併用する藩御用達品の鍋島更紗以外は、型紙を用いた型染めで、様々な文様の和更紗が生産されるようになります。和更紗が登場する以前の型染めは、1枚もしくは2枚の型紙による単色染めでしたが、型紙で更紗文様を表現するために、何枚もの型紙を使って染め重ね、多色染めをする工夫が生まれます。

和更紗 《おっかけ型》(写真:渞忠之)立命館大学アート・リサーチセンター

型紙の工夫

日本で型紙が発達したのは、上質な紙と刃物があったからだといわれています。和更紗の型は、最初は3~4枚で構成するものが中心でしたが、より細かい柄やより多くの色を求めていく中で、次第に枚数が増えていきます。何枚もの型で染め重ねる型を「おっかけ型」とも呼びますが、この型紙は、型紙職人が、図案を見ながら経験と勘で型に分解して構成を考え、染めやすさや扱いやすさに気配りをしながら、精密に彫り分けます。ある程度の決まりはあるものの、職人のセンスが求められる仕事です。なお、型紙には柿渋が塗られています。これにより型紙は、薄くとも丈夫で、耐水性も備え、繰り返し使えるようになるのです。

和更紗 《白地孔雀花入り変わり格子文様和更紗》(江戸後期) - 作者: 写真:渞忠之立命館大学アート・リサーチセンター

江戸期の和更紗

最初はインド更紗の文様そのままを写したものが多かった和更紗も、やがて日本独特の文様表現へと変化していきます。江戸時代にもたらされた舶来の更紗は、洗濯しても色褪せない堅牢な染色が大きな魅力でしたが、布のみを見ていた日本人には技法の解明は難しいものでした。そこで身近な技法を応用し、顔料で染めるようになります。ただ、顔料は洗濯をすれば色褪せてしまいます。そのため、和更紗の用途は、布団革や小袖の中着、風呂敷、袋物など、洗濯せずに使えるものが中心でした。

和更紗 《丸刷毛》(写真:渞忠之)立命館大学アート・リサーチセンター

和更紗の広がりと近代化

和更紗に使われていた型紙の多くは、伊勢で彫られていた伊勢型紙でした。紀州藩の保護のもと、名産品として全国に販売され、また注文を受けていたためです。江戸での和更紗生産は他より遅く、幕末に始まったようですが、明治になると、京都の染色業者が東京へと盛んに移転したことから生産量が増え、また化学染料も導入されて、大正、昭和と時代を経るにつれ、和更紗の様相は大きく変化していきます。太平洋戦争後には、何十枚もの型を使って絹に更紗文様を染める「江戸更紗」が東京で製作されるようになり、人気を博します。

和更紗 《色作り》(中野史朗、写真:渞忠之)立命館大学アート・リサーチセンター

現代の和更紗・色作り

現代の和更紗は、主に合成染料を使うため、江戸期の更紗のように洗濯により色落ちすることはありません。しかし、型紙を重ねて多色摺りすることに代わりなく、昔ながらの伊勢型紙で和更紗を染め若手職人・中野史朗は、今の時代にあった色使いに苦心しながら、技術を継承しています。

和更紗 《地張り》(写真:渞忠之)立命館大学アート・リサーチセンター

現代の和更紗技法 1 ー 地張り

きものや帯を染める場合、長板と呼ばれる作業台に反物を薄糊で固定してから作業をします。歪みやズレが極力ないように染めるのが、日本人ならではの几帳面な作業です

和更紗 《型送り》(写真:渞忠之)立命館大学アート・リサーチセンター

現代の和更紗技法2 ー 型送り

江戸小紋や長板中形など、一色染めの型染めは、型と型のつなぎ目がズレないようにするため、型には目安になる送り星があります。和更紗の場合は、さらに版を重ねるときにズレを防ぐ、合わせ星もあります。

和更紗 《捺染》(写真:渞忠之)立命館大学アート・リサーチセンター

捺染 ー 丸刷毛で染める

型紙を合わせたら、丸刷毛を丸く動かしながら色摺りをします。染め残しがないよう、目で確認しながら作業を進めます。

和更紗 《和更紗各種》(中野史朗、写真: 渞忠之)立命館大学アート・リサーチセンター

これからの和更紗

1枚の文様染めに10枚以上の型紙を使うということは、それだけ時間もかかります。シルクスクリーンや簡便なジェットプリントのテキスタイルが溢れる現代に、和更紗ならではの価値を伝えるためにも、生地選びや色の感覚、また用途も含め、考えていかなくてはなりません。和更紗職人の中野史朗は、染めの技術を磨きながら、型紙彫りも伊勢型紙職人の内田勲より学び、和更紗を未来に伝えようと奮闘しています。

提供: ストーリー

資料提供&取材協力:中野史朗(和更紗染工所)、熊谷博人

協力: 誠文堂新光社 

監修&テキスト:田中敦子

撮影:渞忠之

編集:京都女子大学 生活デザイン研究所 鈴山雅子(京都女子大学家政学部生活造形学科)、毛嘉琪(京都女子大学大学院)

英語サイト監修: Melissa M. Rinne (京都国立博物館

プロジェクト・ディレクター: 前﨑信也 (京都女子大学 准教授

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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