髪をととのえ、日本独特の髪型を結いあげるための道具

京つげ櫛とは
日本髪には欠かすことのできないもの、それは櫛。櫛は縄文時代の遺跡から出土することもある古い道具ですが、つげでできた櫛も奈良時代ごろには用いられていたと考えられています。つげ櫛は、静電気が起きず、地肌へのあたりがよいといわれます。つかうほどに艶めいた飴色になり、より美しくなることから愛用されてきました。ちなみに、櫛屋をあらわす屋号として、江戸時代にしばしば用いられたのが「十三や」。「く(九)」「し(四)」をあわせて「十三」という洒落なのです。現在でも「十三や」や「二十三や」(唐(=十)櫛(=九・四)を扱う、の洒落)を名乗るお店は、少ないながら残っています。
京つげ櫛
日本髪用の櫛は大きくわけて「たてぐし」「よこぐし」の2種類にわけられます。歯の深さや本数などによっても用途がかわるため、かなりの種類があります。油をつけて手入れしながらつかえば、かなり長持ちします。髪飾りに使うようなさまざまな材質・デザインのものが登場したのは江戸時代以降です。つげ櫛は昔は身だしなみの道具として、女性にとって身近な道具でしたが、現在はたてぐしの購入者のほとんどが美容師や床山などの専門家だそうです。
木材の準備
材料は鹿児島県指宿産の薩摩つげ。近年は輸入材もあり、価格によって使い分けしているそうです。樹齢35年ほどのものを、8~9月の暑く湿度が低い時期に切り出し、芯の部分を除いて天日乾燥させます。乾燥後は「板締め」とよばれる作業を行います。昔は竹の箍(たが)、今はプラスチックの荷造り用テープを使って木材をまとめます。乾燥することで起きる、黄楊の反りやひずみを直すのです。この状態で10日間ほど燻蒸します。燻すことで木材がしまり、虫がつかなくなります。櫛づくりの工程で出る黄楊のおがくずで燻すため、独特の香りがつくといいます。その後は最低でも5年、10年から数十年ほど寝かせます。木材がまっすぐになり、十分安定してからようやく櫛づくりにとりかかります。
歯挽き(はびき)
板をおおよその大きさに削り出し、まず櫛の歯をつくります。これを「歯びき」といいます。板を作業台に固定し、歯の幅に合わせノコをあてて挽いていきます。
歯摺り(はずり)
次に歯をとがらせるため、やすりでけずる「歯摺り(はずり)」を行います。歯と歯の間の先端部分にやすりをあて、けずりだしていきます。さらに、歯と歯の間や、歯の根元部分なども削っていきます。片側がおわれば、裏返して別の側から同じ作業を繰り返していきます。雁木やすり、現在は金属やすりで作業しているそうです。いきなり歯をまっすぐに切り出そうとするとうまくいかないので、最初に右端から斜めにきり、次に左端から斜めに切っておいてから最後にまっすぐ切ります。
研磨
歯ができあがると、型にあわせて櫛の形に切り出します。板木賊でけずったり、最近は電動糸のこを使用するそうです。仕上げは三角摺り棒(木製の三角の棒の側面に木賊(とくさ)をはりつけたもの)で仕上げます。最近はサンドペーパーで削ることも多いそうですが、どうしても表面にキズがつくそうで、とくに高級な製品についてはキズのつかない木賊を使います。
最後の仕上げ
最後の仕上げには椋葉や、苧造(うづく)り(刈萱(かるかや)のひげ根を束ねてつくった束子(たわし)で磨きます。苧造(うづく)りは桐ダンスの仕上げにもつかわれるもので、これで磨くと鈍い良いつやが出ます。現在は「バフ」という布をたばねたようなものに蝋をつけ電動で回転させ、櫛を押し付けて磨くことが多いです。
伝統をのこす
櫛に模様の飾り彫りを施すのは九州・大阪などにいる専門の職人さん。狭い面に精緻な飾り彫りを行なうのは熟練の技が必要ですが、近年は職人の高齢化が進んでおり、後継者の育成が急務となっているそうです。櫛づくりの作業も、例えば歯びきは、昔はのこぎりでしたが現在は電動の丸のこを使用するなど、現在の道具も混ぜておこなわれています。しかし、どうしてもそれでは出せない風合いや仕上げもあるといいます。また、伊勢神宮御遷宮の神宝として奉られる御櫛や葵祭の斎王代がつかう櫛など神事や祭りなどでつかうものは伝統的な有職の技に則って木賊や椋葉で磨きます。
櫛のさまざま 《とき櫛》 《すき櫛》
つげくしは髪の毛を梳くだけのものではありません。日本髪の形をつくり、結うために適したかたちがあります。また、関西と関東では、名称や、山のかたちなど少し違いがあります。ここではその一部を紹介します。一般的に「くし」といってイメージされるのは横長の「とかしくし」「ときぐし」でしょう。いわゆる髪をとかし、そろえるためのもの。長さは5.5寸(約16㎝)のものが一般的ですが、歯の本数や太さがいろいろあり、髪の癖やボリュームによって選ぶとよいそうです。「すき櫛」は、フケなどの髪の汚れをとるためのものです。一番下のものは、「鬢櫛(びんぐし)」と呼ばれるもので、髪を梳いてから左右に鬢(びん)をとき付けるのに用います。
櫛のさまざま 《鬢出(びんだし)(深歯)》
フォーク状のかたちをしたこれらは、「鬢出(びんだし)」とよばれる髪結い専用のくしです。日本髪では「鬢」といって左右の髪を浮かせ、張りだすように整えるときにつかいます。柄の部分は、鬢や髱(「たぼ」・関西では「つと」という。襟足、後頭部の髪を後ろに張りだしたもの)の形を整えたり、鬢に「かもじ」をいれるのに使います。
櫛のさまざま 《なぎなた》 《はまぐり》
上・中の、先が斜めになっているものは「なぎなた」とよばれます。「なぎなた」は髪型全体の細部を整えるのに使います。下の半円形にふっくらしたものはその形から「はまぐり」とよばれます。これも髷(まげ)の細かい部分の仕上げに使います。
櫛のさまざま 《筋立て》
毛筋をそろえるための櫛です。歯の太さ・本数などさまざまものがあります。また、西陣織の綴織の職人がつかう「筋立て」もあります。緯糸(よこいと)を寄せるために使うため、歯が細く、深さも均一になったものです。
櫛のさまざま 《元六(げんろく)》
「元六」は表面の仕上げや乱れた髪の表面を手直しにつかいます。くしの歯にはさまざまな太さ・本数があり、荒い歯で初め、歯を細かくしていき、最後は仕上げ用のくしを寝かして毛筋を整えていきます。これらは「鬼歯」とよばれる、ぎざぎざとした歯が特徴です。髪の毛を荒く筋目をたてるときに使います。
櫛のさまざま 《丁髷櫛(ちょんまげくし)》
中の一本の櫛の左右に太さの違う歯を挽いたくしは、「刷毛こき(はけこき)」といい、いわゆる男性の「まげ」、「ちょんまげ」を結うための独特のもの。髻(もとどり)の刷毛(先端部分)を修正するためにつかうものです。上と下は「鬢櫛(びんぐし)」です。
櫛のさまざま 《へら付筋立て》 《元結とおし》
上は「へら付筋立て」といいます。その名の通り、筋立てにへらがついた形状です。下の細長い、箸のようなものは、「元結い通し(もとゆいとおし、もっといとおし)」です。髪を頭の上に集めて束ねたところを髻(もとどり)といいますが、「元結い(もとゆい・もっとい)」」とは髻をたばねるものをいいます。元結い通しをつかって、髷の中に通し元結を結ぶ時に使います。
立命館大学アート・リサーチセンター 協力:京都女子大学
提供: ストーリー

資料提供:京 つげ櫛 十三や

協力: 公益財団法人 京都伝統産業交流センター 京都伝統産業ふれあい館

監修&テキスト:山本真紗子(日本学術振興会特別研究員)

写真: 赤川陽太郎、 A-PROJECTS 高山謙吾

編集:京都女子大学 生活デザイン研究所 田岡佑梨(京都女子大学家政学部生活造形学科)

英語サイト監修: Melissa M. Rinne (京都国立博物館

プロジェクト・ディレクター: 山本真紗子 & 前﨑信也 (京都女子大学 准教授

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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