日本の伝統を支える「筆の里」の筆

筆の里
筆は、書や水墨画、陶芸や漆芸など、様々な日本の伝統文化を支える存在です。筆によって生み出される線が、字が、その制作や伝承を支えてきました。広島県安芸郡熊野町は、日本最大の筆の産地として知られるところ。広島市の東、およそ15キロほどの場所に位置する、豊かな自然に抱かれたこの高原盆地の「筆の里」で、今も多くの筆匠たちが筆を結っています。
熊野筆のなりたち
熊野は盆地で平地が少なく、稲作には適していません。このため、江戸時代からこの土地の男性たちは農閑期に紀州・熊野や奈良・吉野に赴き、働いていたといいます。その際、奈良や兵庫・有馬などの当時の筆の産地を経由するため、そこで持ち運びしやすく、当時は生活必需品であった筆を仕入れて行商していたことが、熊野と筆の関係のはじまりでした。
筆祖の碑
この後、天保年間(1830~1844)頃に有馬からの技術導入が始まり、明治以降、日本最大の産地となって現在に至っています。
熊野筆の材料
日本の伝統的な筆の材料は、国産のシカやタヌキ、ウマなどでしたが、現在では輸入されたイタチやヤギ、ウサギなど、様々な動物の毛が使用されています。墨を含むことができるよう、灰をかけて毛の脂を取り去り、それぞれの用途に合わせて配合するのが職人の腕の見せ所。「毛組み」と呼ばれる、この配合の工程で筆の良否は大きく左右されます。
生産行程 ―下仕事―
毛は、動物の毛皮から取った状態では逆毛や綿毛が混ざっているため、そのままでは使用できません。このため、何度も丹念に櫛を通し、小刀状の工具「ハンサシ」を使って指先の感覚だけを頼りに、一本ずつ使えない毛を抜き取ります。機械化できないこの行程が、先がよく整って尖り、軽やかに円を描け、折れたり割れたりしない、良い筆の条件「尖斉円健」を満たすためには必要不可欠です。
生産工程 ―台仕事―
次に、毛を海藻のフノリを使ってまとめながら、薄くのばしては折り返し、混ぜ合わせる「練り混ぜ」を行います。そののち、筆一本分の大きさに分け、「駒」と呼ばれる小さな筒に通して穂先の形を作る「芯立て」を行い、さらにその芯の上に墨含みを良くし、弾力を増し、美観を加えるために毛を一層巻き付ける「衣毛巻き」の工程が加わります。自然乾燥させたら、穂先の根元を麻糸でくくり、熱したコテを当てて、毛そのものの膠分で焼き固めて穂首が完成します。
生産工程 ―仕上げ―
完成した穂首は、持ち手である軸に据え付けます。竹の場合は、温めて曲がりや歪みを直してまっすぐにし、内側を削って穂首の大きさに合わせ、接着します。その後、穂首をよりよい状況で保つため、フノリを存分に含ませ、不要な糊を糸を使ってしごきとる「糊固め」「糸かけ」を行い、乾燥させて完成です。軸には、専用の彫刻刀で銘が彫り込まれたり、紙札が貼られます。
筆の楽しみ
このような多くの工程を経て作られる熊野筆の種類は多種多様であり、表現者は書や絵画、工芸など、それぞれの好みにあわせて筆を選ぶことができます。棟方志功や植村和堂、宇野雪村や榊莫山など、日本の著名な芸術家たちも、熊野筆の愛用者でした。熊野町の筆の博物館「筆の里工房」では、筆の歴史や生産行程を展示で紹介しているほか、世界一の質と量を誇る筆のコレクション「木村陽山コレクション」展示室や、多くの筆を実際に試しながら購入できる、ミュージアムショップが併設されています。
化粧筆の新展開
書筆の製造技術から派生した熊野の化粧筆は、大正期に展示記録があり、戦後は、大きく変化していく化粧法に適応しながら進化し、現在に至っています。その過程で、欧州の技法をより進化させたメーカー、かわいい形状を作る事を特徴としたメーカー、少人数での高い水準の定質安定供給を誇るメーカーなど、異なる技術体系や品質基準を持つ、多様な会社が生まれ、競い合っているのが最大の特徴です。現在では、ハリウッドなどで活躍する著名なメイクアップアーティストに愛用される化粧筆や、世界的な化粧品ブランドのブラシを手がける会社なども増え、産地として高い評価を受けています。
筆の里工房
Museum of Kumano Brush
立命館大学アート・リサーチセンター 協力:京都女子大学
提供: ストーリー

【資料提供】
筆の里工房

【監修&テキスト】
村田隆志 (大阪国際大学 准教授

【映像】
A-PROJECTS 高山謙吾

【編集】
・ 前﨑信也 (京都女子大学 准教授
・和田梓(京都女子大学大学院)

【英語サイト翻訳】
・ Eddy Y. L. Chang

【プロジェクト・ディレクター】
・前﨑信也 (京都女子大学 准教授

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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