古代からつづく技法を伝える金属の鏡

おしゃれに欠かせない鏡。しかし、日本において鏡は、姿をうつすだけでのものではありません。権力のシンボル、神の依代としての信仰の対象、そして、背面の文様や図柄から美術工芸品としても尊ばれてきました。 金属鏡の製法は、弥生時代ごろ中国から伝わったとされています。平安時代ごろには、化粧道具のひとつになったとされています。そして、日本の自然風物をもとにした和風の意匠と紋様が発展していったのです。古くは円形の中央あるつまみに鈕がついた形でしたが、柄がつくようになると、背面すべてに文様をあらわすことができるようになります。柄のついた鏡は江戸時代に庶民に普及し、さまざまな題材が描かれるようになりました。
明治時代、ガラス製の鏡が普及すると銅の鏡はしだいに用いられなくなります。鏡を作成する鏡師も年々少なくなっていきました。神社やお寺に奉納される鏡の制作がなくなれば、銅鏡の制作は途絶えてしまうかもしれません。 白銅・青銅をつかった金属鏡は鋳造後、鏡面を平らに削って磨き、その後鍍金します。現在でも、御神鏡をはじめとする鏡の磨き直しは、鏡師の重要な仕事の一つです。以前は鏡を磨く専門の職人がいただけではなく、それぞれの工程に専門の職人がいました。しかし、現在は一人でほぼすべての工程を担当しなければならないような状況です。
図案づくり
鏡背にいれる図案を作成します。草花や鳥・蝶などの自然や景物、鶴などの吉祥の紋様などが多く用いられます。砂で形をつくるため、細かすぎる模様は避け、真土型の得意とする肉感的な表現などを盛り込みつつ、最終案を決定します。
真土型(まねがた)の製作
粘結剤や添加物をまぜた鋳型用の砂(真土)をつかい、真土型(まねがた)をつくります。これは古代に用いらていた技法に準じたものです。 枠の上に真土を3層(粗・中・細)に塗り重ねて、型の原形を作ります。「ヘラ」を用い、砂を押してくぼみをつくることで図案通りの模様を作ります。砂をくずさないよう慎重に作業を進めるため、時間をかけて模様をつくっていきます。直径5cmどのものであれば1~2か月、直径20cmほどになれば2~4か月ほどかかることもあります。模様ができれば、それを乾燥させて素焼きをします。
鋳造
鋳造場に移動し鋳造作業を行います。合金(青銅ならば銅と錫、亜鉛)を溶かして流し込みます。
翌日、真土型の砂をくずして鋳型から取りだし、砂を払って綺麗にしたあと、工房に持ち帰ります。
研磨
鋳型からとりだしてすぐは湯口があります。そうした余分な部分や、縁、鏡面を削っていきます。
ヤスリで酸化膜を取り、さらにそのヤスリの目を消すために「セン」とよばれる刀の様な専用の道具を使って削ります。
仕上げ
さらにセンのむらを消すために砥石で研ぎ、砥石の粗さを消すために朴炭と駿河炭を使った「炭研ぎ」をします。このように徐々に削り跡やムラを研いで消していき、表面が滑らかになるよう仕上げます。 昔は本研ぎという工程があり、アマルガムを伸ばして入れ込んでいました。現在はニッケルメッキで仕上げています。
魔鏡
最後に、不思議な鏡の話をしましょう。太陽の光を鏡にあて、それを近くの壁に反射させます。すると鏡の表面には何もかかれていないのに、壁にあたった光のなかに文字や絵が浮かび上がります。これが「魔鏡」です。
魔鏡現象の仕組
「魔鏡」でうつしだされるのは、切支丹魔鏡のように、裏から別の紋様を貼って隠している場合は裏面の紋様が映りませんが、阿弥陀如来魔鏡のように、裏面の紋様が映る魔鏡もあります。もちろん、鏡面には凸凹はありません。実は、鏡面の裏面に模様が鋳込んであるのです。鋳込んだ文様の部分は他の部分にくらべ分厚くなります。鏡とするために表と裏の間の厚さが1mm程度にまで磨きますが、磨こうと力をかけるとたわみます。文様のある厚い部分はたわみが少ないためよく削られ薄くなります。逆に文様のない薄い部分は削られず、厚くのこります。このように、同じように磨いているようでも、表面に目に見えない凹凸ができます。光がこの目に見えない凹凸にあたり像を結ぶことで、壁に模様が浮かび上がるというわけです。
魔鏡製造法の復元
我が国では江戸時代につくられるようになったとされるこの「魔鏡」。一時、製造が途絶えましたが、1974年頃、無形文化財保持者の山本凰龍氏によって製造法が復元されました。2014年6月にはイタリア訪問中の安倍晋三首相(当時)が、隠れキリシタン魔鏡をローマ法王フランシスコに贈ったことでも話題になりました。
立命館大学アート・リサーチセンター 協力:京都女子大学
提供: ストーリー

資料提供:株式会社 山本合金製作所

協力: 公益財団法人 京都伝統産業交流センター 京都伝統産業ふれあい館

写真:Stria photographics

監修&テキスト:山本真紗子(日本学術振興会特別研究員)

編集:京都女子大学生活デザイン研究所 清水彩野(京都女子大学家政学部生活造形学科)

英語サイト翻訳:Eddy Y. L. Chang

プロジェクト・ディレクター: 前﨑信也 (京都女子大学 准教授

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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