胴体や手足が自由自在に動く金属製置物

自在に動く間接、本物と見紛う質感、一目見てこの蛇が金属の固まりであることに気づくのは難しいのではないでしょうか。この蛇の胴体部分は、250個を超える円筒形のパーツを組み合わせてできており、そのパーツそれぞれが関節よろしく動くことによって、とぐろを巻いたり流線型を描いたり、自在に形を変えることができているのです。胴体や手足、触覚などを自由自在に動かすことができるこうした置物を、自在置物と呼びます。
自在置物の起源は江戸の中期。未だ定かでないことも多いのですが、東京国立博物館の自在龍の顎の下に「正徳三癸巳歳六月吉日 明珍紀宗察 三十一暦 於武江神田作之」との刻文があり、この龍が1713年に作られたことが分かります。この他にも1753年にあたる表記の作品も現存しており、18世紀の始めから中頃には、こうした自在に動く置物が作られていたといえます。 自在置物を作っていたのは甲冑師と呼ばれる人たちでした。もともとは武士の甲冑、鍔、馬具などを製作していた人々です。前出の自在龍に記載のある明珍とは、室町時代から続く甲冑師の名家で、当初は関東を中心に活躍しましたが、江戸時代には北は弘前、南は高知に至るまで、分派が全国に広がっていたといいます。
なぜ甲冑師がこうした自在置物を製作するようになったのか、それには諸説ありますが、大名への手みやげにするためであったのではないかとする説があります。江戸時代も中期になると江戸幕府の治世も安定し平和な世の中となります。差し迫った戦の無い世の中では、戦国の世のように絶えず武具防具の受注があるわけではありません。そこで職人は買い替えの際にはぜひ私の所に発注を、という想いを込めて自在置物を大名に贈り、自身の技術力の高さをアピールしつつ関心を買おうとしたのではないかと言われています。
江戸時代(18世紀半ば)になると、来日した西洋人が自在置物に興味を持ち、お土産物として、にわかに人気がでてきました。日本人お得意の細かい細工の自在置物は、根付け同様に西洋人の心を捉えます。そして時代は明治にかわり幕末の動乱が終息すると、廃刀や西洋式生活の導入により甲冑師や金工の職人たちは職を失います。そのような時代を背景として自在置物は盛んに製作される様になったのです。
京都で金工を生業としていた冨木伊助やその冨木に金工を学んだ高瀬高山の作品が今に残されています。高瀬高山は金沢出身で神戸の貿易会社勤務の経験があり、販売経営に秀でた人物でした。明治26年(1893)に京都で独立、明治末には皇太子殿下の御買上に預かり、その後も大正、昭和初期(20世紀前半)までさまざまな博覧会に作品を出品しました。当時は需要に対応するため工房製作体制をとっていました。その実態を裏付けるように、冨木氏の工房には、伊勢エビの部品の型が伝来しているそうです。型を使って同じものを大量に製作していたのでしょう。このように隆盛を誇った自在置物ですが、西洋におけるジャポニズムの終焉や世界大戦の勃発により輸出品としての役目を終えることとなりました。現在自在置物を作っているのは僅かに2人のみ。一人は冨木氏の末にあたる冨木宗行氏、もう一人はその弟子筋である満田晴穂氏です。自在置物はどのようにして作られているのでしょうか。ここでは満田氏の作品を例に、謎に満ちた自在置物の製作行程をお見せします。
制作工程
まずは実際の蝶を解体して、計測、詳細な設計図を作成します。
その設計図に従って金属を切り出し、加工していきます。自在置物は鉄、金、銀、銅などさまざまな金属を用いて作られましたが、この蝶の素材には赤銅が用いられています。
真っ黒なヤニの上に切り出した羽パーツをのせて固定し、羽の模様を打ち出していきます。
脚や胴体などのパーツも同様にして作っていきます。
完成したパーツを組み立て、動きを微調整します。蝶の羽の赤い斑点模様にあたる部分には、異なる金属(素銅)を切り嵌め象嵌して色をつけます。
最後に煮色(にいろ)という行程を経て色を変化させ完成となります。この劇的な変色は、硫酸銅と緑青を水に溶き、その溶液で金属を煮ること(煮色)によって生じます。金・銀は変わりませんが、赤銅は黒、四分一は灰色、素銅は赤茶色というように変色します。
彼岸花と組み合わせれば、幽玄な自在置物作品の出来上がりです。
自在置物は、江戸時代から培われてきた日本の金工の技術に裏打ちされた伝統工芸品であり、心惹かれる遊び心や正確無比な造形など、色褪せない魅力をもっています。今も、先人の優れた作品にならいつつ、現代ならではの技術を用いて、さらに細かくよりリアルへと進化を遂げた作品が作り続けられています。
立命館大学アート・リサーチセンター 協力:京都女子大学
提供: ストーリー

資料提供&協力: 清水三年坂美術館満田晴穂

映像: A-PROJECTS 高山謙吾

監修&テキスト: 松原史(清水三年坂美術館 特別研究員)

編集: 京都女子大学生活デザイン研究所 永澤香奈 (京都女子大学家政学部生活造形学科)

英語サイト翻訳: 黒崎 美曜・ベーテ

英語サイト監修: Melissa M. Rinne (京都国立博物館

プロジェクト・ディレクター: 前﨑信也 (京都女子大学 准教授

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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