平安遷都以後、王朝貴族の祭祀装飾品から現在の茶道具まで使われている、薄い木地に蒔絵などを施した上手(じょうて)の漆器

京漆器の魅力
比較的高価だといわれる京漆器ですが、下地に米糊を使わないので漆の割合が高く、堅牢にできています。木地が薄いのは塗り重ねても薄手に仕上げるためであり、丈夫な京漆器を作るためでもあります。山科の地の粉と砥の粉と漆を練り合わせた「地(じ)」を何回も塗り重ねることで、下地作りをおこないます。この最も基本的な製作工程を丁寧におこなっています。丈夫でありながら使い込むほどに、美しさが増すのはそういう理由があるからです。
木地の薄さ
京漆器の第一番目の特長は、木地の薄さです。まるで紙のように薄い木地は、轆轤(ろくろ)師によって極限まで削り上げられています。この薄さがあってこそ、下地・中塗・上塗と何回も塗り重ねても薄手でありながら雅さをそこなわない、堅牢な京漆器となるのです。
豪華な装飾
京漆器の第二番目の特長は、金・銀を惜しみなく使った豪華な装飾にあります。「平蒔絵(ひらまきえ)」、「研出蒔絵(とぎだしまきえ)」「高蒔絵(たかまきえ)」などいろいろな蒔絵技法が使われています。
象彦
京漆器の代表的なお店である「象彦」(ぞうひこ)。寛文元(1661)年創業した京都の唐物商・象牙屋に奉公した初代西村彦兵衛が主家の断絶にあたり、その跡を継いだのが享保16(1731)年です。この不思議な屋号は、その時に、象牙屋彦兵衛と名乗ったことによります。店の姿を描いた資料には店頭の右端に、朱塗りの大杯が見えます。ショーウィンドウのディスプレイのはしりといっても、いいのではないでしょうか。
大杯
この大杯は、1800年頃に作られたことがわかっています。何度か塗り直されていますが、今もその輝きは褪せることはありません。平安時代の酒器は、土器(かわらけ)か漆器だったともいわれていますが、江戸時代に入って、伊万里などの大量生産された磁器が流通するまで庶民は、軽くて丈夫な漆器を主に使っていたようです。この大杯の直径は上から順番に、それぞれ53cm、65cm、76cmとなっています。今この大きさの杯を作るためには、木地が手に入らず製作には困難を極めます。
八代彦兵衛
八代彦兵衛(1886~1965)は漆器技法の研究に励み、明治末期〜昭和初期にかけて多くの名品を生み出し、万国博覧会、内国勧業博覧会などに積極的に出品・入賞しました。また宮内省の御用をはじめ、三井家・住友家などの御用も受け、象彦は大きく発展しました。また1926(大正15)年には京都美術蒔絵学校を京都の岡崎に設立し、後継者の育成にもつとめました。
三井家との絆
三井家が江戸の豪商から近代の財閥へと大きな変貌を遂げた時期に、三井家の多様な要望に応えていろいろな蒔絵漆器制作が象彦でおこなわれました。それはまた皇室慶事への献上品としても使われました。三井家の隆盛を背景に、金・銀をふんだんに使い、趣向を凝らした調度品が多数製作されました。三井記念美術館で開催された「特別展 華麗なる〈京蒔絵〉〜三井家と象彦漆器」という展覧会で、その贅を尽くした象彦漆器の数々が披露されたのは記憶に新しいところです。
蒔絵
象彦漆器は、京漆器の真骨頂である蒔絵をふんだんに施しています。「高蒔絵」は、文様の部分を漆・炭粉・錆下地などでレリーフ状に盛り上げた後、蒔絵粉を蒔いて立体的な表現をする技法です。また「平蒔絵」は漆で文様を描き、その上に蒔絵粉を付け、さらに漆をしみ込ませて固め、最後に磨きあげる技法です。「切金(きりかね)」は金・銀などの金属の薄板を、小さく正方形や菱形に切って貼付ける方法で、他にも「梨子地」「金貝(かながい)」「付描(つけがき)」「極付(きめつけ)」などいろいろな蒔絵技法が使われています。
几帳蒔絵硯箱
卓越したデザインも象彦漆器の大きな魅力です。「几帳(きちょう)」とは、平安時代以降公家の邸宅で使用された間仕切りのことです。蓋裏には、「几帳」の陰で出番を待つ三人の楽士が描かれています。筝(そう)・笛・篳篥(ひちりき)の楽士の間には燈台が置かれ、油皿には火が灯っています。楽器や燈台の細部にまで文様が書き込まれています。
昔の制作風景
大正7(1918)年にできた製作工場では蒔絵師や塗師などの多くの職人が働いていた様子がうかがえます。象彦には当時の資料やパンフレットなどがいろいろと残されていて、当時の製作風景を見ることができます。現在は完全分業制で、木地師、塗師、蒔絵師が象彦からおのおの外注されて仕事をしていますが、京漆器は文化的な道具や特注品の注文が多いので、社内では仕様に合わせたデザインと、それぞれの段階での厳しい検品がおこなわれています。
置目とは
象彦にはたくさんの図案が残されています。下絵を描いた和紙の裏側に、下絵の輪郭線を弁柄漆でなぞり、漆器面に押し当てて図柄を転写します。その下絵を「置目(おきめ)」と呼び、象彦では大切に保管してきました。その「置目」を使って絵柄をアレンジしたり絵柄を組み合わせたりして、新しい図案を考えるのが社内デザイナーの仕事です。
厳しい眼
下地・中塗・上塗と何回も塗り重ねて堅牢で、雅な京漆器ができ上がりますが、その都度厳密なチェックがおこなわれます。微かな塗りムラ、刷毛の跡、小さな埃の有無など、蒔絵の施された漆器の最終チェックも厳密におこなわれます。
コラボレート
また象彦では漆の新しい魅力を発見してもらいたいと、いろいろな試みにも挑戦しています。これは2008年、フランス人アーティストのミシェル・オディアール氏とコラボレートして作られた万年筆です。漆の技術に、大胆な造形を施したこの世に一つしかないものです。
更なる挑戦
「象彦は京漆器の可能性を常に考えています。京漆器は高級感がありますが、使ってその良さがわかる道具です。特に和食をいただくときにはなくてはならない器です。直接器に口をつける文化は日本独特のものですし、食事だけでなく日本酒のデリケートな味を堪能するにも漆器が合うと思います。また日本人が本来持っていた季節感や、四季折々の室礼を提案したいと思います。床の間はなくなっても、玄関先にちょっと季節の飾りつけをするだけで、日本人の心が現れた空間になるでしょう。海外とのコラボレートだけでなく、日本文化の素敵さや京漆器の素晴らしさを伝えることにも力を入れてゆきたいです」と代表取締役社長の西村毅さんは語ってくださいました。
立命館大学アート・リサーチセンター 協力:京都女子大学
提供: ストーリー

資料提供&協力: 象彦

協力: 公益財団法人 京都伝統産業交流センター 京都伝統産業ふれあい館

監修&テキスト: 上野昌人

編集: 京都女子大学 生活デザイン研究所 鈴山雅子(京都女子大学家政学部生活造形学科)

英語サイト監修: Melissa M. Rinne (京都国立博物館

プロジェクト・ディレクター: 前﨑信也 (京都女子大学 准教授

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
Google で翻訳
ホーム
トピック
現在地周辺
プロフィール