細工は隠して木目を主役に。江戸好みの粋な美術木工品

武家、町人、役者の調度
四季豊かな日本は樹林、樹種に恵まれていることから、古来、木材は建築や調度の主要素材でした。木工技術を大まかに分類すると、指物、刳物、挽物、彫物、曲物、箍物、編物の7種あり、この中でも指物は、金釘を使うことなく〝継ぎ〟や〝ほぞ〟と呼ばれる加工で板材を組み立てる凝った技法。その歴史は古く、平安時代の宮廷文化に遡ります。江戸時代に入ると、全国の職人が江戸に呼び寄せられ、手工業が発展。やがて人々の暮らしが安定してくると、調度品の需要が高まります。江戸の指物職人は、武家用、商人用、また歌舞伎役者用(梨園指物)の家具を多く手がけ、好みと技術を磨きました。
江戸好みの指物
朝廷や公家用の調度には雅な加飾を、茶道用の棚は枯淡な味わい、と、それぞれの好みに応えながら発展した京指物に対して、武家や町人の好みを反映した江戸指物は、直線的なデザインで飾りが少なく、木目を引き立てる拭漆仕上げ。実は、こうした江戸好みの指物を総じて〝江戸指物〟と呼ぶようになったのは昭和40年代(1960年代後半)のこと。昭和56年(1983)には東京都の伝統工芸品の指定を、平成9年(1997)には通商産業省(現・経済産業省)より国の伝統的工芸品の指定を受けて、江戸より続く〝すっきり、さっぱり、堅牢〟な家具作りは現代の職人たちに受け継がれています。
現代の江戸指物1
江戸指物に使われる木材は、桑、黄檗(きはだ)、欅、檜、杉、桐、タモ、ケンポナシなど多彩ですが、中でも御蔵島や三宅島の島桑を使ったものは、際立った木目の美しさと扱いの難しさから、江戸時代より、これを主に扱う指物師を〝桑物師〟と呼んで敬意を表しました。島桑の厚板を4枚の薄板にした引戸の景色が見どころです。
現代の江戸指物2
裁縫箱、行灯、手提げ型引き出しなど、細かい細工が求められる小振りの調度は、〝くせもの〟とも呼ばれていました。持ち運びができる小家具は、日本人が好んできた形のひとつです。
現代の江戸指物3
もともと指物の鏡台は、歌舞伎役者用として多いに作られてきましたが、時代が下るにつれて一般用にも広がり、江戸指物の鏡台は憧れの贅沢品でした。近年は小振りなものが人気です。使用時は鏡を持ち上げ、未使用時は鏡裏の網代編みが前面の蓋になる仕様です。
常心亭 江戸指物の専門店
指物技法1木取り・木削り
製作する家具の寸法に合わせ、木目が美しく見えることを主眼に材木を切ります。この木取りの作業が作品の仕上がりに大きく影響します。そして、罫引きや物差し、鉋を使いながら、板の厚みを調整します。
指物技法2組み手加工
板と板を組み合わせるために、ほぞと呼ばれる溝を彫り、表には見えない組み手の工夫をほどこします。専門的には仕口とも呼ばれ、代表的な技法に、蟻組、三方留、蝋燭ほぞなどがあります。この加工があればこそ、指物は100年もつといわれる堅牢を誇り、職人それぞれが腕をふるう要所です。
指物技法3組み立て
各パーツに必要な組み手加工を施したら、仮組みをします。うまく噛み合っているかどうかを確認して微調整をした後、組み立てを行います。必要に応じて木槌も使いながら、狂いなく組んでいきます。
指物技法4外部仕上げ
表面を鉋で滑らかに仕上げ、角に丸みをつけるなどの加飾加工をした後、サンドペーパーや木賊(とくさ)の皮、椋(むく)の葉などを使って、さらに表面を磨きます。
指物技法5塗装・金物取り付け
漆を塗っては拭いて乾かし、を何度も繰り返す〝拭漆〟により仕上げます。物によっては、ラッカーやウレタン塗装、または無塗装仕上げもあります。塗装は基本的には外注します。取っ手などの金具は、既製品を使うほか、家具の雰囲気に合ったものを彫金師や鍛金師に注文する場合もあります。
江戸指物の今、未来
現在、江戸指物協同組合に所属する職人は10名で、後継者は5名。20代〜80代までが活躍中です、最近は女性の指物職人も登場しています。もともと日本建築の空間の中で育まれてきた木工品である江戸指物を、いかに現代にふさわしく作り上げるかが目下の課題。エアコンや床暖房がある環境で狂わず使える工夫や、今の居住空間に溶け込むデザイン性を取り込みながら、江戸指物独自の美を守ることが求められています。
立命館大学アート・リサーチセンター 協力:京都女子大学
提供: ストーリー

資料提供&取材協力: 江戸指物協同組合

撮影: 渞忠之

監修&テキスト: 田中敦子

編集: 京都女子大学 生活デザイン研究所 田岡佑梨、渡辺雅子(京都女子大学家政学部生活造形学科)

英語サイト翻訳: 黒崎 美曜・ベーテ

英語サイト監修: Melissa M. Rinne (京都国立博物館

プロジェクト・ディレクター: 前﨑信也 (京都女子大学 准教授

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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