宮中で愛された寿福をはこぶ幼童人形

ぽっちゃりとした肉付きと真っ白な肌、小さな手足に大きな頭、ちんまりとした目鼻立ちが特徴的な、可愛らしい幼童の姿をかたどった人形です。その歴史は400年余前にまで遡り、宮中で愛玩されるなかで次第に品格高く吉祥の気分にあふれる人形になっていきました。 「御所人形」という呼称は宮中にゆかりのあることから明治時代の終わりに統一されたものです。江戸時代にはその体型や肌の白さから「白菊」「白肉(しらじし)」、御所において京都に赴いた大名への贈与品として用いられたことから「拝領人形」「大内人形」「お土産人形」など、様々な名で呼ばれていました。また関西では幕末に大阪の伊豆蔵(いずくら)屋という商家が扱っていたため「いずくら人形」とも称されます。
幼児のすこやかな成長を願う
御所人形の源流は幼児にふりかかる穢れや禍を代わりに受ける祓人形の「這子(ほうこ)」(裸の幼児を型取った白絹に綿をつめたぬいぐるみ)を人形化したものとも、江戸初期に流行した嵯峨人形の一種「裸嵯峨(はだかさが)」から発展したとも言われます。 這い這い人形は古来、誕生の祝いだけでなく、正月や八朔に天皇から親王や皇女に下賜されました。宝鏡寺や霊鑑寺などの門跡寺院には、姫宮たちが愛した人形が伝来しています。 今にもよちよちと歩きだしそうな御所人形の姿には、いつの世も変わる事の無い、子どもの健やかな成長を祈る人々の想いが込められています。
御所人形をつくる
御所人形の芯となる生地の制作方法には、桐の木彫、桐の木で芯をつくり桐塑で肉付けする木芯桐塑、土人形をつくり素焼きにする陶胎、原型を石膏で型取りし、厚手の和紙を叩き込み抜いたものに桐塑で成形する張り抜きの4種類があります。
白い肌
白磁にも似た柔らかな輝きを帯びた白い肌は、イタボ牡蠣を精製し粉末状にした胡粉と呼ばれる顔料を塗り重ねることで生まれます。この胡粉を作る職人は現在京都でわずか2件。近年は上質なイタボ牡蠣が取れなくなってきたため帆立貝を用いることもあります。 胡粉塗りには、地塗り、中塗り、上塗りの3工程があります。

地塗りでは、濃い膠液で溶いた胡粉を全体に3〜4回ほど塗り、和紙を張ったのちさらに塗り重ねて乾かします。


地塗りでは、濃い膠液で溶いた胡粉を全体に3〜4回ほど塗り、和紙を張ったのちさらに塗り重ねて乾かします。

次に、粘度の高い胡粉で目鼻の置き上げをし、地塗りよりやや薄めの胡粉で中塗りを10回程度行ない、彫目や刷毛目がなくなるまで丹念に磨きます。昔は鮫皮を用いていましたが、近年は荒目の異なるサンドペーパーを使い分けています。何度も胡粉を塗り重ねて磨くことで柔らかな光沢が生じ、御所人形特有のあたたかみのある白い肌が出来上がります。
「さらえ」と「ぬぐい」
小刀で目や口、手足の爪や臍などの細部を切り出します。その後、木賊で全体を磨き上げ、お湯に浸したガーゼでぬぐい表面を滑らかに整え、さらに薄く溶いた胡粉の上澄みを用いて6〜7回程度、上塗りを施します。
人形にいのちをふきこむ
人形の目を描く「開眼」は、御所人形にいのちをふきこむ瞬間です。眉は柔らかな毛の一本一本まで丹念に描き、口元には朱をさします。様式化され造形のなかに、見るものに語りかけるがごとき豊かな表情が生まれます。 丸々とした顔に繊細な線で小さく描かれた目鼻立ちは、平安絵巻に描かれる引目鉤鼻の幼童の姿を想起させます。そこには、日本古来のこどもに対する美意識が受け継がれているのでしょう。
受け継がれる吉祥のかたち
無心に遊ぶ幼童のすがたは、裸形か腹掛けをつける程度のものから、豪華な衣装を着せ付けたものや木目込んだものまで様々です。持ち物やポーズにもそれぞれ意味が込められており、多くは吉祥説話や謡曲、英雄譚や孝行話などの物語の見立てになっています。そこには、子供にこう育って欲しいという親の願いとともに、日本人の人生観や哲学が子供の姿を借りて表現されています。
御所人形のこれから
最小限の所作でさまざまな表情を見せる御所人形の造形様式は江戸時代に確立されました。現代の御所人形もおおよその寸法やポーズなど基本的には代々受け継いできたかたちを踏襲しています。しかし、たとえ確立された同じかたちであっても、それをいかに仕上げるかに人形師の感性が反映されます。そのためアンティークとは違う、現代人の感覚に寄り添った瑞々しい人形となるのです。 近年は古式に則った姿だけではなく、その様式美をふまえて和歌や四季折々の心象風景を表現する新しいかたちの御所人形も制作されています。伝統の技を用いながら、世代を超えて愛され受け継がれゆく御所人形づくりが目指され続けているのです。
京都女子大学 生活デザイン研究所
提供: ストーリー

【資料提供】
島田耕園

【監修・テキスト】
・田中圭子 

【写真】
・久保田康夫
・呉屋直

【協力】
公益財団法人 京都伝統産業交流センター 京都伝統産業ふれあい館

【サイト編集・制作】
・山本真紗子(立命館大学)

【プロジェクト・ディレクター】
・前﨑信也(京都女子大学 准教授
・山本真紗子(立命館大学)

提供: 全展示アイテム
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