町人の密かな遊び心。贅を尽くした粋な小物

密かに凝った小物のお洒落
町人文化が花開く江戸時代。幕府は経済力をつけた町人たちを統制するため、たびたび奢侈禁止のお触れを出しました。そこで町人は、茶色や鼠色の装いや、縞格子といった、地味な色とシンプルな模様で質素に見せかけて、目立たぬ小物や裏地などで、贅沢を楽しんだのです。袋物はその代表格で、懐に入れる懐中袋物と、たばこ入れのように腰に下げる袋物の2タイプに大きく分けることができます。
見えないところにこそ凝る
前ページの浮世絵の人物が掛けているものと同種の袋物。実は筒状のカバーと中身に分かれています。さやの素材は舶来の羅紗で、中身の袋物にはインドの紅唐桟(とうざん)と更紗(さらさ)が使われています。袋物には木版の印仏が納められているゆえに、掛守と呼ばれます。
袋物商の登場
人々の移動が活発になった江戸時代、携帯品のための袋物の需要が高まり、袋物商が登場します。その多くは誂えで、じつに贅沢なもの。なかでもたばこ入れは、袋物仕立て、金具、漆工、蒔絵、根付など、多種多様な工芸の結集で、各ジャンルの職人の分業で成り立ちます。袋物商の店主や番頭は、顧客の意向を汲み取りながら、適切な職人に発注し、センスよくまとめ上げる才覚が求められました。
愛らしいインド更紗
16世紀に南蛮船がもたらした煙草により、江戸時代には広く喫煙の習慣が広まりました。江戸末期には男女を問わず9割以上の大人が愛煙者だったため、キセルと刻みたばこを持ち歩くためのたばこ入れが発達したのです。娯楽の少ない時代に、たばこの一服はひそかな楽しみでした。だからこそ、余裕のある人たちはたばこ入れに凝ったのです。
優美な金具
喫煙具を運ぶ実用性に、装飾品としての美しさを込めたたばこ入れには、持ち主の職業や嗜好、雰囲気を伝えるような、個性的な意匠が多く見られます。布地の色や柄に合わせて、金具には蝶や玩具。鎖使いも美しく、若い女性向きのたばこ入れ。こうした金具の多くは錺職人が手がけましたが、特に凝ったものは、刀装具の金具師によるものもあります。
夏仕様
季節や場所や装いに合わせて、たばこ入れをいくつも誂えていたことがうかがえる、籐編みのたばこ入れ。阿蘭陀風な意匠で、夏らしく軽快な雰囲気にまとめられていて、当時のセンスの高さが伝わります。
贅沢の極み 金唐革
たばこ入れには舶来素材が多用されています。高価な素材も、小さな袋物になら生かすことができたからでしょう。なかでも金唐革のたばこ入れは、当時の家一軒分にも匹敵する、とびきり贅沢なものでした。
オランダ趣味
オランダ東インド会社のコインを根付にする、斬新なセンス。江戸時代後期に大流行したオランダ趣味が横溢するたばこ入れです。
江戸版化粧ポーチ
女性用の懐中袋物の代表的なアイテムのひとつ、懐中鏡入れ。外出時、帯と着物の間に差し入れて携帯しました。このなかには銅製の鏡、櫛や揚子、紅などの化粧道具が納められています。
江戸っ子の身だしなみ
紙入れは鼻紙などを入れて懐に入れる袋物。鼻紙を挟む口とは別に書付(メモ)や楊枝を入れる口もついています。きものの袂や懐、帯は、ポケット代わりになる便利さがあり、そこに必需品をお洒落に納めていたのです。
現代の江戸袋物職人
江戸袋物の文化は、明治、大正期にも受け継がれ、高い技術の袋物が多く生み出されました。というのも、明治の廃刀令により職を失った刀装具の金工家たちが、袋物の仕事に活路を見出したからでした。江戸袋物といえば、やはりたばこ入れですが、大正12(1923)年の関東大震災以降、巻きたばこが普及することで、次第に需要が減り、趣味的なものになっていきます。作る職人もほとんど姿を消しましたが、藤井直行は、袋物職人だった祖父、父の後を受け継ぎ、江戸袋物の暖簾を掲げて製造を続けています。たばこ入れの叺も昔ながらの道具で製作しています。
たばこ入れの叺を作る道具
割子になった木型は、江戸時代から変わらない叺作りの道具です。先代が作った木型を、今も使い続けています。これを使うことにより、叺は丸みと厚みのある形に仕上がります。
割子を叺に入れる
叺を縫い終えたら、内側に木型を差し込んで広げていきます。右のように中心に薄板を加えていくと、徐々に厚みと丸みがついていきます。ぐっと入れ込んだ時に窮屈な感じの手応えがあったら、打ち木で叩いて型を入れ込み、丸みを出します。さらに、外から叩いたり、皮革用ローラーを当てて、丸みをつけていきます。最後に鏝(こて)を当てて仕上げます。革は種類によって伸縮や硬さが異なるため、木型の割子の数が何枚かあり、微調整できるようにしています。
京都女子大学 生活デザイン研究所
提供: ストーリー

【資料提供・協力】
・平野英夫(其角堂コレクション)
株式会社クイーポ(KUIPO資料館)
・中村公隆
・藤井直行(藤井袋物)
・ウェッジ「ひととき」

【監修・テキスト】
田中敦子

【撮影】
渞 忠之

【英語サイト翻訳】
・ エディー・チャン

【サイト編集・制作】
・杉島つばさ(京都女子大学 生活造形学科)
・久保薫(京都女子大学 生活造形学科)
・植山笑子(京都女子大学 生活造形学科)

【プロジェクト・ディレクター】
・前﨑信也 (京都女子大学 准教授)
・山本真紗子(立命館大学)

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
Google で翻訳
ホーム
トピック
現在地周辺
プロフィール