東北の山岳信仰の町に受け継がれた地域伝統の紙漉き

古の道
山形県西川町は「湯殿山」や「月山」、「羽黒山」という出羽三山にも数えられる山岳信仰の地となっています。東西24キロと長い町内に延びる街道筋には、かつては遠く関東からも参拝者が訪れていました。今も信仰の名残である寺社や遺構が各所に残っています。
山岳信仰とともに
江戸時代にはさまざまな和紙が作られ、西川町では西山和紙という名で受け継がれていました。月山和紙は月山への登拝口の一つで、岩根沢三山神社(旧日月寺)という巨大な神社と宿坊集落がある西川町岩根沢地区で漉かれていた西山和紙を源流としています。
紙漉きを守る
岩根沢地区でも最後の一人となってしまった飯野博雄氏は西山和紙から月山和紙と名称を変えて平成7年まで紙漉きを守っていました。昭和50年ごろの写真からは作業をする家族の様子がわかります。
大井沢自然と匠の伝承館
町内の大井沢地区に平成元年(1989)に落成した「大井沢自然と匠の伝承館」には紙漉き工房が併設されました。しかし、岩根沢と大井沢は車でも30分近くかかります。高齢のため使用を辞退した飯野氏に代わって、指導者として招聘されたのが三浦一之氏でした。西川町に来てからは飯野氏とも作業をしながら月山和紙を引き継ぎ、西川町でただ一人の紙漉きとなっています。
清流沿いの道
大井沢地区は西川町の最奥地に位置します。振り返ると清流の遥か先に月山、湯殿山が佇み、冬には3メートルにもなる豪雪地帯となります。「日本のチベット」と呼ぶ人もいたほどです。しかし、湯殿山へ向かう参拝者が絶えなかったという旧街道沿いに残る湯殿山神社(旧大日寺)にはサッカー場程の広さに礎石が並び、かつての繁栄を偲ばせています。
大井沢工房さんぽ
現在、三浦一之氏は伝承館内の和紙工房で紙漉き体験教室も行っていますが、 大井沢地区内のさらに最奥に個人工房を構えて月山和紙を漉いています。
月山和紙の特徴
地元で採れた楮を使い楮の繊維本来の風合いを活かした紙が月山和紙の特徴です。今も残る飯野氏が漉いた紙は昔ながらの月山判(30.0cm×79.0cm)で、板干しで乾燥した柔らかな風合いを持った素朴な紙です。三浦氏にかわっても楮の風合いを活かす紙作りは変わりません。
製作工程:楮の刈り取り/楮を切り揃える
月山和紙の工程を見てみます。雪の降りだす前、11月末頃に楮を刈り取ります。(「楮の刈り取り」)刈り取った楮は70cmほどに切り揃えます。(「楮を切り揃える」)
製作工程:楮蒸し
切り揃えた楮は束ねて釜に立て、桶を被せて2時間蒸かします。蒸かしあがってすぐに水をかけると、皮が縮み、むきやすくなります。
製作工程:皮剥ぎ/皮引き
蒸かした楮の樹皮は簡単に手で剥くことができます。冷める前に剥かなくてはいけないため、地域の方や大学生が集まって作業をします。剥いだ皮は束にして乾かします。(「皮剥ぎ」)次に、乾燥させた楮を再度水に浸して小刀で表皮を剥ぎます。樹皮が付いた状態のものを黒皮といい、剥いだものを白皮といいます。(「皮引き」)白皮にした楮は乾燥させます。この作業は今でも岩根沢の方々が協力をして行っています。
製作工程:煮熟/水洗/塵取り
白皮にした楮をソーダ灰の入った水で2時間程度煮ます。(「煮熟」)煮た楮は水洗してソーダ灰などを洗い流します。(「水洗」)よく水洗した後、楮の繊維に残った細かい傷や節の汚れなどを一本ずつ手で取り除きます。(「塵取り」)
製作工程:叩解
塵取りをした楮の繊維を解します。昔は板上に置いた楮を堅木の棒で叩くことで繊維を解していましたが、今は打解機やナギナタビーターといった機械を使います。
製作工程:撹拌
漉き舟に水を張り、楮を入れて、馬鍬を前後に動かして楮の繊維を分散させます。竹の棒も使ってよく混ぜ、ネリを加えて再度よく混ぜて紙料液を作ります。このネリを加えることで水中に楮の繊維が均一に浮遊して分散した状態となります。ネリにはトロロアオイの根から採れる粘液を使用しています。
製作工程:紙を漉く
簀桁という木の桁枠に竹簀を設置した道具を使って紙を漉きます。ネリが加わり、粘性があることで、簀の上で前後に揺することができるようになります。手前から汲みこんだ紙料液を前後に何度も揺すりながら、簀桁全体に繊維が均一に拡がるように動かします。動かし方は紙の種類や厚みなどによっても違います。漉き舟の紙料液は漉く度に楮の繊維が減るために、同じ厚みに漉き続けるには微調整を続ける必要があります。
漉き上げた紙は板の上に重ねて「紙床(しと)」と呼ばれる層を作ります。紙床の状態で一晩水を抜き、圧搾機で残った水分を搾りだします。(「圧搾」)かつては冬の間、蔵に紙床を寝かせておき、春になるまで保管したといいます。
月山版の展開
水を搾った紙床に水を与えて、一枚ずつ板や乾燥機に貼り乾燥させると月山和紙の完成です。かつての月山和紙の用途は障子紙として使用されました。現在は昔ながらの月山判の他、紅花染めや紅花を散らしたもの、藍や檗、大井沢で採れる天然の染料を使って、草木染をした月山和紙も制作しています。
さまざまな紙を作る
様々な寸法の紙を作るためには寸法にあった道具が必要です。東北芸術工科大学の日本画専攻用の大判和紙(130cm×103cm)や、菊判と呼ばれる(63cm×94cm)和紙、小中学校の卒業証書も作っています。
素材を活かす
月山和紙を使ったさまざまな日用品も作っています。はがきや名刺、レターセット、短冊といったものを作っているほか、地元のこけし作家が描いたうちわなどもその土地独特の造形となっています。
その他にも山形県最上地方の秘湯「肘折温泉」を舞台にした、東北芸術工科大学のアートプロジェクト「ひじおりの灯」の灯籠絵にも使用され、多くの作家や学生が様々な表現を試みています。
あかりを灯す
最近では、月山和紙を漉いていた祖父母を持つ地元の月山和紙あかりアーティストせいのまゆみが三浦氏の漉いた紙を使ってあかりを制作しています。冬には雪の壁が6メートルを超える月山志津温泉などを舞台に、柔らかな楮を通した光が雪深い温泉郷を温かく照らし出しています。
立命館大学アート・リサーチセンター 協力:京都女子大学
提供: ストーリー

資料提供: 大井沢工房 さんぽ(三浦一之氏)、西川町自然と匠の伝承館、出羽三山神社、仙台屋旅館 、東北芸術工科大学

監修&テキスト: 大山龍顕 (東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター

編集: 京都女子大学生活デザイン研究所 坂下理穂(京都女子大学大学院家政学研究科)

英語サイト翻訳: 黒崎 美曜・ベーテ

英語サイト監修: Melissa M. Rinne (京都国立博物館

プロジェクト・ディレクター: 前﨑信也 (京都女子大学 准教授

提供: 全展示アイテム
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