静なるカオス

数ある絵画のジャンルの中の『静物画』は、場面に動きがない一見つまらないジャンルに思われるかもしれない。しかし、特に16〜17世紀の西洋の創意工夫が凝らされた個性豊かな静物画には画家の技巧はもちろん、物語や寓意、世相がぎっしりと詰め込まれている。絵画の中に秘められた静なるカオスに注目したい。

1《ホルバインボウル、鸚鵡貝のカップ、ガラスのゴブレットや果物皿のある静物》ウィレム・カレフ 1678
贅を尽くした虹色の酒杯や中国製の磁器の大皿はオランダの外交貿易の繁栄を表している。画家の卓越した描写力もさることながら、当時のオランダの鼻息の荒さも伺える作品。

2《ヴァニタスの静物》エバート・コーリアー 1662
ヴァニタスとは世の虚しさを表す静物。豪華な楽器や楽譜、本や地球儀などのモチーフは、影に隠れた頭蓋骨や砂時計もよって、たやすく人生の儚さや虚しさの象徴に変容する。

《マルタとマリアの家のキリスト》ピーテル・アールツェン 1552
静物画かと思いきや、画面左中央に静物画の背景に聖書の一場面が描きこまれている。宗教的寓意を表すインパクトの強いモチーフ群もさることながら人物の後ろの奇妙な像が気になる。

2《カキとルーマー、レモンと銀食器の静物》ウィレム・クラース・ヘダ 1634
ヘダのようにモノクロを基調とした食卓画はモノクローム・バンケッチェと呼ばれる。この画家の静物画の神秘的なまでの静けさは他に類を見ない。ちなみ17世紀オランダの静物画にカキとレモンが頻出するのは、医学的に良い食べ合わせとされたことも関係しているらしい。

《宝石と金貨、貝のある花束》ヤン・ブリューゲル 1606
この絵は実際に見たことがあるのだが、その時の匂い立つほどの鮮やかな感動は忘れられない。画家がパトロンにこの絵を花瓶の下に描いた宝石や金貨と同じ値段で売ろうとしたのも頷ける。
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