優雅な服をまとった貴族の少年が、こちら側、すなわち私たち絵の鑑賞者がいる部屋に入ろうとしている。傍らに立つ騎士見習は後ろを振り返り、カーテンの後ろにいる男と会話を交しており、足元のグレイハウンド犬がその声のする方を見上げている。
ヴェロネーゼは、貴族の別荘の装飾をいくつか手がけているが、本作はもともと、それらの部屋のドアに描かれた装飾画であった。(本作では作品の保存のため、後年になって、絵具層がカンヴァスに移し替えられている。)
絵の中の架空の扉を開けて入ってくる騎士見習や幼女を愛らしく描く、こうしたトロンプ=ルイユ(だまし絵)的な手法によって、建築家・彫刻家・画家が共同作業をして一つの邸宅の総合的な装飾に取り組む上で、建築装飾から絵画装飾へと切れ目無くつながる大きな効果をあげている。この絵は、《戦士と騎士見習》と題される同じサイズの別作品と対をなしており、洒落た室内装飾の一翼を担っていたのであろう。
本作にみられるようなローズとグリーンの微妙な色彩のハーモニーと、柔らかい黄色の明るさは、ヴェロネーゼが好んだ特色ある色の使い方である。またヴェロネーゼは、犬や子どもを描くことが好きで、《エマオの巡礼者たち》や《カナの婚宴》(ともにルーヴル美術館)のような大きな宗教画においてさえ、婦人像とともに子どもや犬を描き込んでいる。こうした世俗的表現は、17世紀フランドル絵画のルーベンス、ヴァン・ダイクや、18世紀フランスのロココ絵画に先駆するものとして注目される。