北京の故宮(紫禁城)は、中国を象徴する建造物として今なお偉容を誇る。この作品は、紫禁城内側の広場から金水橋越しに午門北側(裏)を描いたもの。午門は、紫禁城を囲む城門では最も重要な正門であり、それより内側が皇帝の執政と居住の実質的な空間であった。象徴的な城門のために、古くから絵に描かれてきたが、このように門の裏側を描いた作品は珍しい。こうした視点の置き方に、パリで生まれ育った作者の旧来の価値観にとらわれない、自由で近代的な意識が垣間見られる。午門の下部は、王朝の崩壊を暗示するかのように荒れたままである。なお、この作品は、作者が1953年のシンガポールでの展覧会のために再制作した一枚と推定されるもので、全く同じ絵柄の作品がもう一点存在している。どちらの作品も流麗な線や上品な色彩等、画家の初期の作風をよく示す優品である。