青木繁、1882(明治15)年、福岡県生まれ、近代日本の浪漫主義を代表する画家である。日本の神話やインド古代説話を題材とした多くの作品を描き、豊かな表現力や着想力で当時の人々を魅了した。青木は晩年の約3年間、貧困や家族との対立から九州を放浪したのち、肺病で28歳の若さでこの世を去る。この《犬》はその九州放浪中の作品である。《犬》では、夕暮れの逆光の中という青木らしいドラマティックな場面設定で、役者のようにポーズをとる一匹の犬の姿態が描かれる。張りつめた肩の筋肉や敏捷そうな後脚のデッサンから、青木の描写力の高さが見て取れる。