クリスチャン・ディオールの優雅な作風を代表する作品。ドレス全体を飾る刺繍は、身体の部位によってパターンの大きさが異なり、細いウエスト、スカートの広がりを強調している。オートクチュールならではの完璧な技術である。1950年代のオートクチュール全盛期において、イヴニング・ドレスの刺繍は質、量ともに隆盛を極めた。とりわけディオールは、先に刺繍した生地を仕立てた後、接ぎ線などを隠すため、さらに上から刺繍を施したが、本品でもそうしたテクニックが見られる。
ディオールの優雅なスタイルは、品位を重視する階級の人々に愛用された。顧客リストには、イギリスのマーガレット王女、アルゼンチン大統領夫人エビータなどの顔ぶれが並んでいた。