ジャンヌ・ランヴァンが好んで用いた「ローブ・ド・スティル」と呼ばれるドレスの典型。1920年代の異国趣味とアール・デコの色彩感覚を見事に凝縮している。
大きく広がる黒のスカートにアズテック(アステカ)美術に見られるような円形模様が銀色で浮かび上がる。メキシコやエジプトといった古代文明からのモチーフの流行は、ツタンカーメンの墳墓発掘(22年)など、考古学上の発見に沸いた当時の熱狂ぶりを物語っている。1910-20年代、シャネルらが急進的な衣服革新の動きを先導する中、ランヴァンは優雅で上品な「ローブ・ド・スティル」を作り続けた。両脇が膨らんだスカートとレースや刺繍を多用した豪華な装飾を特徴とする優美さ溢れる一連のドレスは、新時代のモダンでボーイッシュなファッションに馴染めなかった伝統美を重んじる顧客たちの支持を得た。