朝焼けの光を映して薄紅色に輝きながら漂う霧と、山の中や川沿いに今を盛りと咲き誇る桜の形が呼応して、鮮烈な美しさを見せています。《東海道五十三次》であまりにも有名な風景画の名手、歌川広重が全国の景勝地を描いたこの連作で、現在の京都が含まれる旧山城国から選んだのも、ここ嵐山・渡月橋の風景でした。しかし、桂川の中洲の南北に、ほぼ同じ長さの橋がかかり、戸無瀬の滝もかなり大きく表現されるなど、実際の景色とは大きく異なっています。広重は江戸を離れて、京都を訪れることは生涯で一度もなかったため、伝聞や他の絵師の作品を参考にしたからでしょう。およそ170年前の昔にも江戸にまで聞こえていた嵐山の美が、巨匠、広重の想像を交えて描き上げられています。