両図とも「信方(?)」と読める落款とヨーロッパ紋章風の印章が対称的な位置にあることから、対に描かれた作品と考えられる。これと同様の印が捺(お)され、この画家の手によるとされる作品としては、「日教上人像」(兵庫県青蓮寺)、「達磨図」(埼玉県養竹院)、「婦女弾琴図」(大和文華館)などが挙げられる。この信方という画家については、文献中にも名前が見あたらずその経歴は明らかでない。ただ「日教上人像」などの仏教的主題を描いていることから、キリスト教徒として洋画を学びながら、後に棄教した人物であるとも考えられている。�
当館蔵の本図でも、他の初期洋風画と同様、16世紀ヨーロッパ美術の潮流であったマニエリスム様式の影響がみられ、類型化の進んだ柔和な顔立ちや、微妙なS字型にくねらせたポーズが優美な雰囲気を漂わせている。しかし本図も含めて信方筆とされる作品は、無地のうえに人物を描くという、極めて東洋的ともいえる手法をとっている。これは他の初期洋風画にはない特徴であり、この画家の素性や活躍期を考えるうえで重要な問題を含んでいる。