大橋翠石(1865-1945)は明治~昭和時代に活躍した画家で、生前には東西日本画壇の重鎮であった横山大観や竹内栖鳳にも並ぶ高い評価を受けていました。生涯を通して、虎の絵を孤高に探究した彼の作品は、今日注目されつつあります。本作に描かれるのは、水辺の草叢に姿を隠しながら、鋭い眼光で前方を睨む虎。一見派手な虎の縞模様は、茂みでは目立たないため、獲物を狩るためには有効です。水を飲んでいた最中、何かの気配を感じ取ったのでしょうか。前脚を突き出す様子は緊張感に満ちています。胴体や足の部分など、毛の下に赤を加えて描かれた虎は、60代後半の作品に見られる特徴です。それ以前に制作された迫力ある虎とは異なり、床の間に映える清らかな作風が魅力的です。