武蔵野図は、近世初期のやまと絵系諸画派に好まれた画題で、一般に風情あふれる武蔵野の原野を描いたものを指す。武蔵野は古く「万葉集」や「伊勢物語」「更級日記」にもその名が見え、「続古今和歌集」に「武蔵野は月の入るべき峯もなし、尾花が末にかかる白雲」(源通方)と詠まれ、俗謡に「武蔵野は月の入るべき山もなし、草より出でて草にこそ入れ」とあるように、見渡すかぎりの草叢が広がっていたと想像される。本図は江戸時代に同図が定型化していく前の段階にある作品である。月と秋草の図は、古くは平安時代より愛好されたテーマの一つ。芒の群生の中に、朝顔、桔梗、野菊などの花が姿を見せ、右隻には釣屋、左隻には農家の屋根も見える。
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