琳派は桃山時代後期に興った流派で、本阿弥光悦と俵屋宗達が創始し、尾形光琳・乾山兄弟によって発展した。当時衰退気味であったやまと絵の伝統を装飾性豊かな独特の様式美によって再興し、宮廷や上層町衆を中心として広く受け入れられるところとなり、以後の日本美術に多大な影響を与えた。
本作は、しなやかに枝を伸ばし、枝先の白梅の蕾がちらほらと咲きだした梅樹を、金箔の無地を背景に対角線状に大きく描いた琳派らしい装飾性の高い作品である。樹木としての生態の描写を度外視して、梅樹は根元や上方を画面の外にはずし、枝振りや幹の一部のみを描いて梅樹独特の形態の美しさを抽象化し、無駄なく簡潔にまとめあげた構成力は見事というほかはない。広く残された金地の輝きが豪華な雰囲気を醸し出し、薄墨のたらし込みであらわされた樹幹に点苔として加えられた緑青が潤いを感じさせて美しい。太い幹が右上方向に伸びるのと対照的に、右に分かれた枝が左上に向かって枝を伸ばす構図の妙に加え、伸びやかな枝振りは気品さえ感じられる。
工芸的な意匠性とともに品格に富んだ琳派ならではの典型作の一つといえよう。