大阪一賑やかな繁華街・ミナミの真ん中に、そこだけ異空間のように、しっとりと情緒あふれる横丁が存在しています。
千日前商店街から、細い路地に入ると、「法善寺横丁」の木看板に迎えられます。清々しく打ち水された石畳を踏み進むと、左手から線香の匂いが漂ってきます。突き当たりに、水掛不動尊が祀られているのです。多くの人が願いを込めて、柄杓で水を掛けるので、いつも美しい緑の苔に覆われています。
法善寺は、明治時代から参詣者が絶えず、その堂前に、茶店や飲食店が自然発生し遊楽の街となりました。昭和の初期までは2つの寄席があり、落語や漫才のメッカともなりました。太平洋戦争の空襲で界隈は焼失しましたが、戦後、盛り場として復活し、石畳の路も復元されました。
たくさんの小説や映画、歌の舞台ともなった法善寺横丁。そんな横丁への大阪人の愛着は、2002年の火事の折りに証明されました。建築基準法の規制で道幅を拡大しなければならないことがニュースで流れると、「横丁の情緒が失われてしまってはいけない」と、瞬く間に30万人の署名が集まったのです。その熱意のお陰で、元のまま2.7mの路地を残す特例が適用されました。
すっかり昔の姿を取り戻した横丁の、ほんの100mほどの路地には、大阪の誇りとも言える名割烹や焼鳥、おでん、寿司、バーなど、大小の飲食店が軒を連ねています。
巨大な動く看板がいっぱいで、まるでテーマパークのように賑やかな道頓堀は、「コテコテ」と言われる大阪の代表選手ですが、すぐその脇に、昔ながらの風情が残る味と人情の横丁があるのも、大阪の良さなのです。