5月5日に洛北の上賀茂神社でおこなわれる競馬神事をあらわした小袖。馬2頭で先着を競う競馬は、その年の作柄を占う神事であり、堀河天皇の寛治7年(1093)に始められたと伝える。端午の節供の競馬という主題から、少年が着用した小袖であろう。
上半身には紅の絞り染による角立(すみだち)石畳文様を、下半身には追いつ追われつしながら駆け抜けていく2騎を、友禅染を主体に、随所に刺繡を加えて表現する。友禅染とは、文様の輪郭線に沿って糊を置き、糊で区画された内部にさまざまな色を挿して、まるで絵画のように自在な文様を表現する技法で、17世紀の終わりに開発されると、その自由度の高さからきものを飾る主要技法となった。糸目と呼ばれる白く染め残された輪郭線の美しさと豊麗な色彩が見どころで、この1領でも、友禅染による細密な描写によって、競い合う2頭の馬と2人の騎手の緊迫した空気が、臨場感豊かに伝わってくる。
享保9年(1724)に刊行された小袖雛形『当流模様雛形鶴の声』に類似する文様が見られることから、おおよその製作年代が推測される。