昔、仲間と十和田山へ働きに行った八ノ太郎は平等分配の掟を破り、捕えたイワナを一人で全部食べてしまった。急にのどが渇き、三十三昼夜にわたって川の水を飲み続け、とうとう大蛇になってしまった。そして、大きな湖を造って住みつき、十和田湖の主となった。
永い年月が過ぎ、南祖坊という僧が十和田湖を通りかかった。熊野権現に「履いている鉄のわらじが切れた所を永住の地にせよ」と告げられてきた南祖坊は、十和田湖で緒が切れたので、ここに定住しようとして、湖水の主 八ノ太郎と争いになった。 南祖坊の唱える法華経一千巻の文字が利剣となり、八ノ太郎はついに敗れて、秋田の湖に逃げて行ってしまった。今度は八郎潟の主となったのである。