黄金の甲冑に身を固めた騎士が、行く手を阻む邪悪な蛇に目もくれず、歩みを進めようとしている様子が、正方形の画面いっぱいに描かれています。オーストリアの画家クリムト(1862-1918)は、国の依頼で手がけたウィーン大学大講堂の天井画を猥褻だと非難されたことをきっかけに、自らの芸術を独自に探究するようになりました。デューラーの銅版画《騎士と死と悪魔》(1513)を参照したこの騎士の姿に、クリムトは自身の状況を重ね合せています。画家の代表作のひとつである本作は、哲学者ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインの父親の旧蔵品で、日本の公立美術館としては初めて収蔵されたクリムトの油彩画です。