第1回文展に出品し3等賞を受賞した作品で、柱にもたれかかり物思いに耽る和装の女性の半身像を表している。
小林万吾ははじめ安藤仲太郎、原田直次郎につき、ついで天真道場に入り黒田の指導を受け、明治29年 (1896) 東京美術学校西洋画科新設と同時に同校に入学、白馬会の創立にも参加した。明治31年卒業、同37年東京美術学校助教授となり、同44年ドイツ、フランス、イタリアに留学、帰国後は教授に就任する。本作品は明治40年第1回文展に出品したもので、少女は庭に面した柱に寄り掛かって肩で身体を支え、読んでいる頁を開いたまま、左手に書物をさげている。前方に向けられたその視線は虚ろである。こうした明治の市民の日常的な光景の表現は明治20年代の洋画には見られなかったものであるが、和田英作《渡頭の夕暮》、白瀧幾之助《稽古》(両者共に本学蔵)などを境に次第に取り上げられるようになっていった。本作はその系譜に連なるものである。昭和11年12月23日に作者自身により寄贈された。第1回文展出品作。(執筆者:川口雅子 出典:『芸大美術館所蔵名品展』、東京藝術大学大学美術館、1999年)