「野ざらし紀行」は、芭蕉による初めての紀行文です。1684年8月、41歳にあたる芭蕉は江戸を発ち、名古屋と伊勢を通って故郷の伊賀に到着します。その後京から近江、名古屋を経て、江戸深川の庵に翌年4月末に戻りました。その旅で詠んだ俳句を中心にまとめたのが「野ざらし紀行」で、芭蕉独自の俳諧を確立する画期的な作品となりました。芭蕉の親友山口素堂の文で始まる《野ざらし紀行図巻》は、芭蕉自身が文章と俳句、さらに21場面の挿図を執筆した作品。現在2点しか確認されていない芭蕉自筆の「野ざらし紀行」うち、教科書などには本作の文章が一般的に用いられてきました。また、紀行文全文と絵を伴うのは本作以外になく、芭蕉研究のきわめて貴重な史料というべきものです。