西洋絵画の影響を強く受けて展開した日本近代絵画史のなかにあって、北川民次の経歴 と作風は異彩を放っている。社会の情景と都市生活者の哀愁を描いたジョン・スローンら ニューヨークの「社会派」の画家たちや、メキシコでオロスコ、リベラ、シケイロスらの 壁画運動に接したこと、さらにはメキシコでみずから取り組んだ児童美術教育の経験と環境のなかで、民次は終生の主題となる民衆を描く目と技術を身につけた。
メキシコ滞在中に描かれたこの作品からは、つやのない灰色を基調とした彼の独特な画面の質感と、工夫された画面構成がうかがえる。教会を見下ろす丘に、これから霊園へ向かう、いつくしむように幼子を抱く女と花束を持つ民族衣装のティルマを着た婦人たち。 画面左下には、小さな棺桶を頭上に掲げた男にしたがう葬列。そのほか水浴する女や、放たれた牛やロバ、足元に転がる骸骨、サボテンや竜舌蘭など、メキシコ特有の題材が点景として配されている。これらを対比して配置させながら、相矛盾する生と死の主題がひと つの画面にまとめられている。「死者の日」に象徴される復活再生の願望を込めたメキシ コの死生観をも見るものに感じさせる。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選』、1998年、p. 79.)