マゲイという龍舌蘭の一種である巨大なサボテンを中央にして相対する小作農民と農園領主夫人。渦巻く白雲と乾いた大地に、メキシコ革命以前の農民たちがおかれていた過酷な現実が象徴的に描かれている。
マゲイは、その樹液からメキシコ民衆が好んで飲む酒プルケやテキーラが造られ、その 部厚い葉は建築材として、またその繊維はサンダルやロープとして使われるというように、昔からメキシコ民衆の生活の必需品であった。ところが19世紀後半になると、プルケが重要な輸出資源となり、広大なマゲイ農園が開墾され、農民たちは奴隷のように働かされた。 非情な農園領主に対する農民たちの怒りと悲しみは頂点に達しようとしていた。間近に迫 る革命の嵐を予感するように、大気のうねりが緊張感を高めている。
荒野のなかで空に向かつて牙をむく恐竜のようなマゲイは、メキシコの大地の象徴とい え、運命に翻弄されるメキシコ民衆を、いつも静かに見守ってきた。マゲイの単純で有機的な形態は、オロスコの画面構成の重要な要素としてしばしば登場するが、この《メキシ コ風景》のなかの巨大なマゲイは、画面全体を圧倒するような迫力で農園領主夫人から小作農民の母子を守るように描かれている。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選』、1998年、P. 49.)