1905年、京都御苑内で開かれた「木島櫻谷屏風展」に出品されて以降、110年以上もの間、所在不明となっていましたが、2021年に発見、公開されました。右隻には藤が咲いており、晩春から初夏にかけての景色が描かれています。霧雨の降る中を鹿の番が歩みを進め、その背後では、まだあどけない仔鹿が立ち止まって顔をこちらに向けています。仔鹿の手前には大きく曲がった藤の幹があります。一息で描きあげられた幹は、淡墨を含ませた筆の先端に濃墨を加え、一筆で濃淡を表す技法「付立」が使われています。 対して左隻には、山の中に木枯らしが吹く晩秋の景色が描かれています。わずかに残った葉をも散らす、強く、冷たい風は、森に住む動物たちに冬の訪れを知らせているようです。岩上に登り、後方斜め上を振り向く猿は、落葉をもたらす風の音を耳にして、思わず動きをとめたのでしょうか。両隻で平地と山地の立体感、空間の奥行きが描き分けられ、櫻谷独特の画趣に富む作品です。