単純化された画面と、赤、黄、緑の三色の組み合わせが大胆な作品です。深緑の山を背景に男女が向き合い、その足元からは手の形をしたものが地面から生え、二人にメッセージを送っているようにも見えます。女性は手で顔を覆い、泣いているのでしょうか。情熱的な赤い衣服を身にまとっていますが、その姿は悲しみに包まれています。本作は、夢二の第2回個展に出品された《スプリング》という作品を、夢二自身が描き直したものです。個展の後《スプリング》は行方知れずとなり、絵葉書しか残っていませんでした。しかし後に発表された本作において、左上にある木の跡や、黒色から茶色に塗り替えられた女性の頭髪など、随所に《スプリング》の痕跡が見つかり、上塗りされた作品だということが判明しました。