如拙(じょせつ)(生没年不詳)は足利将軍家や相国寺周辺で活動していた画僧で、とくに足利第4代将軍・義持(よしもち)(1386~1428)の命で描いた「瓢鮎図(ひょうねんず)」(退蔵院蔵)は彼の代表作としてつとに名高い。
本図はその「瓢鮎図」とともに、如拙真筆であることが明らかな希少な作品である。図上に賦された五山文筆僧・惟肖得巌(いしょうとくがん)(1360~1437)の賛によると、この画はかつて大岳周崇(だいがくしゅうすう)(相国寺第10世、1345~1423)が如拙に描かせた扇面であったが、のちに弟子の子鞏全固(しきょうぜんこ)が掛幅に改め、賛を求めてきたという。大岳は先の「瓢鮎図」に序文を寄せたことも知られるので、如拙とはかなり近しい関係にあったのだろう。
画題は、書聖・王羲之が扇(団扇)売りの老婆のために扇に字を書いてやったので飛ぶように売れたが、それに味を占めた老婆の再度の要求には応じなかったという逸話に基づく。そこにみる王羲之や老婆、樹木などの表現は梁楷(りょうかい)(南宋時代の宮廷画家)の減筆体(げんぴつたい)の手法に学んでおり、簡略ながらも細線を駆使して的確にあらわされている。
なお、扇面は改装時にその形状が団扇形に変えられているが、これは題意を強調するための粋な趣向である。