滞仏中の作品で、フランスの文豪テオフィル・ゴーティエの娘ジュディット (Judith Gautier) の肖像とされている。
山本芳翠は、松岡寿と同様、西洋画を学ぶために渡欧した第2期の留学者である。南画を学んだ後、五姓田芳柳に接して洋画に転じ、明治9年(1876)に工部美術学校に入学する。明治11年渡仏しパリ国立美術学校に入学、ジャン・レオン・ジェロームに師事してアカデミックな油彩技法を学ぶ。明治17年パリのジョルジュ・プティ画廊で個展を開催し、約300点もの作品を展示しているが、その殆どは巡洋艦畝傍と共に失われてしまっている。本作は遺された数少ない滞欧作品の1つで、若い女性の胸像を表す。モデルは右向きの側面観で捉えられ、画面右手すなわち人物の正面から光が当たり、後頭部にまわりこんだ光が金色に輝く髪に効果的に映えている。全体に薄塗りで、背景と人物との境界には褐色系の下描きが最後まで残され、生彩のある筆触である。明治29年10月27日に長尾建吉より購入された、東京美術学校西洋画科設置の年の最も古い収集品の1点である。(執筆者:川口雅子 出典:『芸大美術館所蔵名品展』、東京藝術大学大学美術館、1999年)