豪奢な金の刺繍が施された黒と白の衣装と、宝石で飾られた頭飾りを着け、右手の薬指に赤い大きな宝石の指輪をして本を持つ女性は、トスカーナ大公妃のビアンカ・カッペロ(1548—1587)である。彼女はメディチ家の8代目当主であったフランチェスコ大公の熱愛を受け、1578年に結婚して彼の二番目の夫人となり、その翌年に大公妃となった。この肖像画はおそらく、彼女が結婚し、亡くなるまでの10年間のあいだに描かれたものであろう。
作者のアレッサンドロ・アローリは5歳のとき孤児となり、マニエリスムの大画家として知られる伯父のアーニョロ・ブロンズィーノに引き取られ養子となった。フィレンツェで彼は、メディチ家がブロンズィーノに対して行ったのと同じように庇護を受け、教会その他の公共建築物の装飾を委嘱された。またアローリは、本作に見るようにトスカーナ地方の著名人を描いた肖像画で大きな成功を収めた。
アローリは、師匠ブロンズィーノの理想化された形体上の純粋性を引き継ぎながら、ミケランジェロを源泉とする形体の増幅、ラファエロに影響を受けたリズム感などの個人的な趣向を両立させようと試みた。本作は工房の制作ではあるが、このアローリの様式を良く表わしており、とりわけ真珠をはじめとした宝飾品や金刺繍などの材質感の再現性などにその特徴を見せている。なお、アローリが描いたビアンカ・カッペロの肖像画は複数存在し、フィレンツェのウフィーツィ美術館に代表作がある。
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