クラーナハはアルトドルファーらと並ぶドナウ派の巨匠で、1505年にザクセン選帝侯フリードリヒ賢侯に招かれてヴィッテンベルクの宮廷画家となり、肖像画や祭壇画を制作している。3代にわたるザクセン選帝侯に仕え絵を描いたが、ここに描かれたのはクラーナハが最後まで忠誠を誓った3代目のヨハン・フリードリヒ豪胆公(在位1532—47年)の若き日の気力に満ちた肖像である。作者の高い写実の技術、深い心理描写など、鋭い眼によって、モデルの男性的で特異な風貌や豪放な性格がよく映し出されている。この右向きの半身像は、もと二連式絵画(ディプティク)の左側の一部分であったと思われる。