ターナーは幼児期からテムズ川とその周辺の風景に愛着をもち、刻々と変化する海や河の景観は、雄大な自然のリズムの美を少年の心に植え付けた。
初期の作品は、綿密な観察に基づくリアリズムの技法に、明るい光や大気の表現法などクロード・ロランらの古典的手法を取り入れたもので、本作は小品ながらも、この時期の画家の力量を如実に示している。
左から右へ覆い始めた暗雲、強風で横倒しになる船、急いで帆を下げようとする人の動き、強大な力を今にも爆発させようとする波のうねりによって、差し迫った嵐の緊迫感が見事に描出されている。
この時期、ターナーは、人間のささやかな努力を圧倒するような強大な自然の力をロマンティックな手法で描く海景画を何点か残している。