チャイナ・トレード・ペインティングと呼ばれる作品群がある。中国では「晩清外銷画」と呼ばれる清朝後期の西洋向け輸出用絵画のことである。この時代の中国を訪れた西洋からの旅行者は、異国で見た珍しい風景や習俗の記念に絵を求めた。そうした要請に応えて、中国人画家たちは、広州や香港に工房を構えて、肥大化した異国趣味に彩られ、西洋絵画の空間表現にならった絵画を作り出した。亜熱帯の広州や香港ではあり得ない冬景色には、清王朝を制した満洲族の官吏とその風俗が描かれ、中国内外で流通した既存の視覚資料をもとに、西洋の旅行者が中国に対して抱いたイメージと作者の想像や知識が交差した地点に生まれたものであろう。全体は西洋絵画の遠近法によって構成されているものの、岩や樹木は、あきらかに中国絵画の伝統的な描法で描かれ、奇妙な空間を作り出している。その統一を欠いた空間の不思議さが、逆に新鮮な魅力を生み出す結果ともなっている。