メキシコシティのサン・カルロス美術学校に学んだリベラは スペインに留学して最初は伝統的な古典絵画を学ぶが、その後ヨーロッパ近代美術の中心地であったパリに移ると、ピカソやモディリーニとの交友を通して、当時最先端の前衛美術運動であったキュビス ムに参加していった。
《スペイン風景(トレド)》は、 リベラがキュビスムを探究しはじめて間もない頃に制作された作品である。懐かしい故郷を思い出させるスペインの大地を前にしてシリベラはごつごつした岩山やなだらかな丘陵を単純で幾何学的な形態に還元して描いている。しかし、例えば画面右上の遠景部分には、まだ写実的な表現の名残りが見られる 谷間を流れる川 の面に反射する日差しのきらめきを表現したパステル調の明るい色彩の調和が美しい。 造型性を重視して次第に画面から色彩を排除していったピカソやブラックのキュビスムに対 して、リベラのキュビスムは最後まで明るく鮮やかな色彩を失うことはなかった。リベラ のキュビスム時代はわずか5年に過ぎないが、そこで確立された単純な形態と多彩な色面 によるモザイク的な画面構成は、巨大な壁面空間を埋めつくすリベラの壁画表現の最大の特徴となっている。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選』、1998年、P. 53.)