本作は、江戸の町中を焼き尽くした大惨事「明暦の大火」を招いた振袖を巡る伝説を描いたもの。画面左に佇むのは、深紅の振袖をキザにはおり、何とも妖艶な流し目を送る罪作りな小姓の姿。迫る炎は火事を暗示するばかりでなく、彼の身を焼く地獄の炎を表しているのかもしれません。その様子を悲しみにくれながら見守るのは、小姓に恋焦がれ命を落とした3人の娘。周囲に蓮の花びらが舞散る安らぎの世界に佇みながら、なお恋い慕う様子を見せています。山川秀峰(1898-1944)は、鏑木清方に学んだ画家。ドラマチックな場面を色彩の鮮やかな対比によって見事に描いてみせたこの作品は、画壇へのデビューを飾った、若き日の代表作です。