The cliff of St. Jouin

ロワゾーはパリの出身。初め家業を手伝い装飾家としての仕事に就くが、チフスを患ってから画家を志し、モンマルトルに移り住んで多くの画家と交友を結んだ。1890年にポン＝タヴァンを訪れた際、ゴーギャンを中心に同地に集まった画家たちを通じてゴーギャンの影響を間接的に受けた。1894年、印象派をプロモートした画商デュラン＝リュエルの契約作家となる。ゴーギャンが第１回タヒチ旅行から戻ったのもその頃で、２回目の旅へ出かけるまでの５カ月間、ロワゾーはポン＝タヴァンで直接ゴーギャンの薫陶を受けた。1895年にモレ・シュル・ロアンに移住するが、モネ同様旅を好み、ノルマンディーの海岸のほかフランス各地の風景を描いた。一見するとモネの絵に似ているようであるが、モネが光の効果で移り変わる自然を純視覚的に描写したのに対し、ロワゾーはどちらかというと自然を主観的、情感的にとらえた。南仏よりもノルマンディーの光、昼よりも朝夕の太陽を好んだ。即ち、ぎらぎらとした強烈な存在感はないが、その光が大気にあまねく浸透して生命を包み込むような優しい太陽である。そして、トルコ石のような青空、美しくバラ色に染まる雲、軽やかな空気、水蒸気に宿る光などを表現する繊細で魅力的な色づかい。それらが彼の絵の特徴である。