暗所から急に陽光の中に出ると、瞬時、外界は白んで知覚される。本図に描かれているのは、このハレーション効果を伴う、強い光が照らしつける自然であろうか。筆墨をおさえ、短いタッチを連ねて構成された本図を見つめていると、やがて網膜上に確かな像が結ばれてくる。柔らかな牛毛皴(しゅん)をほどこした岩、胡椒点・介字点によって点描された樹葉などが、下から上へうねりつつ展開する。対象把握の確かさはゆるぎがない。
まぶしい光が反映する樹葉や水波の描写は繊細で、単調さを破る側筆風のふとい樹幹の表現も見のがせない。リズミカルな墨の濃淡は、墨一色とは思えない多彩さ、動勢、立体感を生んでいる。舟で酒盃をかわす漁師たち、水遊びに夢中な子供たちの顔や姿態も、実に表情ゆたかだ。
款記「倣王摩詰」が意味するものは、画法の典拠ではなく、池大雅(いけのたいが)(1723~76)が生涯敬愛した唐の詩人画家、王維の「声無き詩」への遥かな思慕だろう。日本南画の大成者であり、光への鋭敏な感覚をしめした大雅40歳代の傑作として忘れられない。