この作品は、台湾高雄市左営区にある作者の自宅兼スタジオを空想力豊かに描いたもの。実際には平屋の建物が、ここでは不思議な螺旋状の多層建築になり、庭の奇岩も現実離れした植物のような姿に変っている。作者の想像力はさらに、教え諭すような仏や冠を被った裸の男のイメージを唐突に登場させる。一方で、松の木に何かを打ち込む男、昔ながらの椅子やテーブル、日本時代を思わせる障子、盆栽や鉢植えなど、どこか懐かしく日本人にも馴染み深いモチーフが散りばめられている。独学で絵画を習得した作者にとって、子どもの頃の思い出、民間信仰、郷里の風景や自然は創作の源泉であってきた。それらの要素をふんだんに盛り込んだこの幻想と現実が入り交じる「風景」は、作者の物語性の強い作品群の中でも自由闊達な発想と表現が十分に発揮されたものである。なお、一階に画中画としてこの作品自体が描き込まれている。