博多旧奈良屋町で使われた共有の什器類。博多各町にはそれぞれ、子供・若手・中年・年寄という年齢別組織があり、歳に応じた社会的役割を担ってきた。なかでも、若者は町の実働組として、博多祇園山笠や博多松囃子(まつばやし)などの祭礼では中心的な存在であった。
この資料は、旧奈良屋町の若者組「奈良若(ならわか)」が、山笠行事の期間中、町の詰所で炊事用具として使用した他、春の花見や秋の筥崎八幡宮放生会(はこざきはちまんぐうほうじょうや)の「幕出(まくだ)し」など、野外での会食にも用いられてきた。野風炉とは携帯用銅壺(どうこ)のことで、野外で酒の燗(かん)をつけるための道具である。木枠には慶応2(1866)年当時の奈良屋町若者組構成員1O人の名前が刻み込まれている。
戦前まで、このような共有具は博多の各町が所有していた。しかし、戦災によってそのほとんどは消失してしまい現存していない。幸いにして、残った奈良屋町若者組道具26点は、昭和63年3月に福岡市の有形民俗文化財に指定された。