古代風の建物や廃墟を主題に描いたロマン主義風景画や、18世紀後半のパリの生活や出来事を描きとめた記録画を得意としたユベール・ロベールは、1754年から65年までローマに滞在した。この期間に、「廃墟の画家」として知られるピラネージやパニーニと知り合っている。ロベールが古代の建築やモニュメントを同時代のモチーフと組み合わせて描くスタイルはこのローマ滞在に影響を受けている。
本作の画面の前景では、川にかかる石橋のアーチの下で、女たちが洗濯や炊事に余念がない。スフィンクス型の2対のライオン像が置かれた石の階段を上り降りする人々、母親の傍で戯れる子どもたち、両岸に渡された板の上を歩く犬など、日常のありふれた生活のひとコマが描き出されている。一方、対岸の左下方は反対に暗くなっていて、薪を焚く炎の黄色い明るさが周囲の暗さを強調する格好になっている。川面に沿って上流の方向に眼を向けると、遠景には二つのアーチをもつ石橋の下に滝のような急流があり、ごつごつとした大きな岩の間をぬって下り落ちているのが見える。繁みのある岩場の上には古城がそびえ立っている。近景の現実的な生活空間とは対照的なロマン主義風の非現実な空間ともいえる光景で、明るい幻を見ているような印象を受ける。
すなわちこの作品は、近景では当時の庶民の生活風景を、遠景では橋と城のあるロマン主義的な風景を表わしており、その両者を一つの画面に組み合わせて描いた彼の得意のスタイルといえるだろう。ロベールはローマから戻った後、本作が描かれた1767年には王立絵画彫刻アカデミーに入会し、その後も宮殿の装飾などを手がけて活躍した。
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