三重県大王崎の波切村を題材に、暮れゆく漁村の景が描かれた作品。リアス式の急峻な海岸の丘には、村人の家が階段状に立ち並び、奥行きが感じられます。画面右には盥(たらい)や桶を頭に乗せた婦女が行き交い、左には3人の村人が明日の天候を探るかのように太平洋を見つめています。立体感のある岩肌や家は、胡粉に墨を混ぜた「具墨」を用いて描写。絹の裏から貼られた金箔や、画面上部に刷かれた金泥は、夕暮れ時の残光を表現しているかのようです。入江波光は1887年に京都市上京区で生まれました。絵の研鑽を積み、1909年に京都市絵画専門学校が設立されると研究科の2年に編入します。卒業後は国画会の創立に誘われるも辞退。その後1918年の第1回国画創作協会展で《降魔》が国画賞を受賞し、翌年に国画会の会員となりました。本作は第2回国展の出品作で、波光が会員となったその年に描かれた意欲作です。後に国画会へ所属した若手画家たちにも大きな影響を与えました。