グルメ旅行の魅力

Editorial Feature

作成: Google Arts & Culture

Bar in San Sebastianスペイン王立ガストロノミー学会

ジャーナリスト、マルタ フェルナンデス グアダーニョ: スペインのグルメ旅行の進化

1970 年代後半に始まった「新バスク料理」運動。サン セバスティアンにあるアルサックやアケラレといったレストランに、フランス、アメリカ、イギリス、スカンジナビアからの旅行客が次第に訪れるようになった当時のことを、運動の中心となったシェフたちもよく覚えています。テーブルに着く食事客の中には、さらに遠いアジアやオーストラリアなどからやって来る人もいました。ミシュランの三ツ星を獲得したこれらのレストランは今も、海外から訪れる客たちを歓迎し続けています。

サン セバスティアンのバー - バスク州でおいしい料理を楽しめる、おすすめの場所

フェラン アドリア氏も同じような話をします。彼は、コスタ ブラバにあったレストラン、エル ブジを訪れる外国の旅行客や食通を歓迎してもてなした結果、大成功を収めました。こうした客たちは、カラ モンジョイの地に立つこのレストランで提供される、斬新で魅力的な「最高」の料理を楽しむために、数か月、あるいは 1 年以上も前に予約して世界各国からやって来た人々なのです。

これは、グルメ目的の観光旅行がこの数年間にスペインで発展したことを紹介するほんの一例です。しかし、はっきりしていることが 1 つあります。観光産業はマスツーリズムを背景に発展し、それに伴って生じた誤りや欠点が現在スペインの一部の沿岸地域に影響を及ぼしている現在、外国人観光客にとってのスペイン料理の魅力は今まさに変わりつつあるということです。パエリアもどきや冴えないタパスを出す観光スポットは残念ながらいまだにあります。しかしそれが、エル ブジ風の料理(たとえば「球状化」した料理)、スペインの名産品(生ハムの「ハモン イベリコ」など)、最近よく知られるようになった郷土料理の「ポルボ ア フェイラ」(タコのガリシア風)、「コシード マドリレーニョ」(マドリード風シチュー)、「ペスカイート フリト」(小魚のフライ)、本物のパエリアなどが提供されるように変わっているのです。こうした「なんでもあり」の状況が、2018 年のグルメ旅行の鍵を握っています。最近はやっているのは、1 回限りのオリジナル企画です。たとえば、多くのワインセラーがグルメ旅行の目的地になり、サン セバスティアン、マヨルカ島、セビリアに支店を置くミモではグルメツアーや料理教室を開催しています。現在はマドリードやコスタ ブラバなどさまざまな街でも、地域ごとに多様な観光戦略が存在します。

データを完全に信頼できるわけではありませんが、近年発表された研究結果では、この業界の強みについていくつかの考察がなされています。そこでは、海外からの旅行客の 15% が「食べること」を主な動機としてスペインを訪れており、約 950 万人の観光客が食べ物関連の活動に参加していると推定しています。スペインの観光協会、Turespaña は、美食が「スペイン ブランドの大黒柱」になったと述べています。この「純粋」な旅の目的に向き合い、コンサルタント会社の Dinamiza では、マドリードの観光総局とゴンサレス ビアス ワイナリー グループと協力して、2017 年後半にフード ツーリズムの需要に関する研究を発表しました。国内の旅行者に注目したこの研究は、興味深い結論を出しています。過去 2 年間、スペイン人の 76.2% が各地の料理を楽しむつもりで旅行したり休暇を過ごしたりした一方、「純粋」なグルメ旅行をする人は、需要全体の 28.7% でした。

Extebarri's angulas(2017)スペイン王立ガストロノミー学会

シラスウナギのグリル - バスク州アトクソンドの「エチェバリ」にて

今日、グルメ目的でスペインを旅する観光客の人物像は、外国人もスペイン人も今までとは変わってきています。実際、人物像は 1 つだけではありません。Dinamiza の研究では、食通、美食家、食べることが好きな人、「責任ある立場」でグルメツアーに参加する人、アマチュアの料理人、ワイン愛好家、大食漢、快楽主義者、国際的都会人などのタイプを挙げていますが、これらはほんの一部にすぎません。こうした分類はともかく、アトクソンドにあるビットール アルギンソニス氏のレストラン、アサドール エチェベリの世界一有名なグリルで調理されるウナギ、タコ、エンドウ豆、牛肉、フジツボなどを食べるために、何千キロも離れた場所から飛んでくる覚悟でいる人々が間違いなく存在するのです。このアサドール エチェベリは、2018 年の「世界のレストラン ベスト 50」で 10 位に入っています。ちなみに、2 位はスペインのレストラン「アル サリェー ダ カン ロカ」です。順位が常に変動し予測が難しい(フェラン アドリア氏いわく「無情」な)この「ベスト 50」には、6 軒のスペイン料理レストランがランクインしています。ムガリッツ(9 位)、ディスフルタール(18 位)、チケッツ(32 位)、アルサック(31 位)、アスルメンディ(43 位)です。51 位から 100 位までには、ネルア(57 位)、キケ ダコスタ(68 位)、マルティン ベラサテギ(76 位)、エルカノ(77 位)、エニグマ(95 位)、DiverXO(96 位)といった名前も見られます。

Carme Ruscalleda in Sant Pauスペイン王立ガストロノミー学会

カルメ ルスカイェーダ - カタルーニャ州サン ポル ダ マールの「サンパウ」(現在は閉店)の厨房にて

この 13 軒のレストランは特に、グルメを自認している旅行客を引き付けていますが、スペインではおよそ 200 軒のレストランがミシュランの星(一ツ星から三ツ星まで)を獲得しています。中でも、バスク地方出身のマルティン ベラサテギ氏がラサルテ オリア、バルセロナ、テネリフェ島で経営するレストランはそれぞれミシュランの星を獲得しており、彼が獲得した星の数は合計 8 つにもなります。さまざまな料理コンテストの最多受賞数を誇るカタルーニャ出身の女性シェフ、カルメ ルスカイェーダ氏は、自身が営むミシュランの三ツ星レストラン「サンパウ」を、30 年目の節目の年に閉店することを決めました。一方で、他の 2 つのレストラン、「MO メント」(バルセロナ)と「サンパウ東京」は今後も続けていきます。いずれもミシュランの二ツ星を獲得しているレストランです。

Central Market of Valencia(1914/1928)スペイン王立ガストロノミー学会

バレンシアの中央市場

その一方、これらの一流レストラン以外でもスペイン料理の魅力は失われていません。観光客たちは、昔ながらの本格的な店もあれば改修された近代的な店もあるいくつものバルを渡り歩いたり、伝統的な市場や再生された市場を訪ねたりして楽しんでいます。グルメ目的の観光客がぜひとも訪れるべき場所はいくつかあります。オムレツが名物のボデガ デ ラ アルドサ(マドリード)、缶詰の盛り合わせが出てくるキメキメ(バルセロナ)、ボケリア市場内にあるランチで有名なピノッチョ。バレンシア中央市場内でリカルド カマレナ氏が開いているセントラル バルではさいの目にカットされた野菜サラダやガーリック ラビットを楽しむことができ、サンティアゴ デ コンポステーラにあるアバストス市場内のアバストス 2.0 では、その日に獲れた一握り分のシーフードが食べられます。あらゆる種類の店が軒を連ねる市場には、伝統を守るところもあれば新しくなった店もあり、観光客を引き付けています。

Central Bar by Ricard Camarenaスペイン王立ガストロノミー学会

セントラル バル - バレンシアの中央市場内にあり、バレンシア出身のシェフ、リカルド カマレナがオーナーを務める

しかしながら、今日の世界では、本場の食べ物だけでは物足りなく感じるときもあります。たとえば、有名な「ポルボ ア フェイラ」(タコのガリシア風)であれば、ちょっとひねって「タコのパーティー」と表現してもいいかもしれません。ですが、外国人観光客の足を遠のかせないためには、メニューもスタッフもさまざまな言語に対応する必要があり、少なくとも英語の料理用語くらいは知っておかなければなりません。スペイン料理での観光客への対応でもう 1 つ重要なのは、イベリコ豚のハム、魚の缶詰、エクストラ バージン オリーブオイル、ワイン、トゥロン(ヌガー)などのお土産をスーツケースいっぱいに詰めて帰りたいと思っている旅行者がたくさんいることです。そのため、スペインの空港では昔ながらのスペイン名物を販売する店舗が増えています。

つまるところ、スペインは今の状態に満足しているわけにはいかないようです。フード ツーリズムは世界的に、とりわけペルー、日本、スカンジナビアで大々的に展開されつつあり、チャンスを無駄にすることはできません。スペインには、気候、人柄、個性、農産物、地域ごとの多彩な料理、料理の創造性、普遍的な言語といったあらゆるものが揃っています。1 種類の言語しか話さない旅行者でさえ「タパス」という単語の意味はわかります。タパスは世界中で知られ、称賛されている料理だからです。それはまさに「スペイン産」を体現した存在であり、スペイン料理が世界中の人々に愛され続けるためには、こうした原点を守り続けることが大切であるように思われます。

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